忘れた頃に今日の大凶 (1/1)


時は少しばかりさかのぼる。

外見そとみ中身なかみさん忙しそうだよねぇ」

いや、忙しくないはずはないんだけどね。NOCリスト大放出セールとか水面下で大騒ぎ間違いなしだ。
こんな大変な時に、良くわからん急な相談に応じてくれた赤井おにーさん、実はとても良い人では?あ、知ってた?そっかぁ。知ってるの俺だけじゃなかったかぁ!

「……………」

へんじがない。ただのもとすこっちのようだ!!
昨日からなんかぼんやりしていることが多い。何か考え事をしているみたいだけど、どうしたんだろう。ぼうっとしながらもちゃんと運転してるけど。絶対に俺にハンドル握らせてくれないんだよな元スコッチおにーさん。何でだろうか。
俺こう見えてもちゃんと免許持ってるよ!元の世界で!
え、米花町に繋がってる世界の神崎くんの免許証?そんなものは存在しないなぁ!!

「なあ……神崎

ひょっ。
ぴょっ。
だから急に名前を呼ばれるとびっくりするんだって。

「この前から……いや、もしかしたら随分と前から考えていたかもしれない事が……あるんだ……」

「ん?」

考え事をしてたのは知ってたけど、何かはまったく分からない。まさかの俺関係?
とりあえずお口チャックで話を聞く。

「オレを助けて、お前は大丈夫だったのか?」

「えっ?」

「お前は……あの時、何を考えて動いていた?」

あんまり何も考えてませんでした!!って言ったらすごく怒られそう。え、これ真面目に答えた方が良い?答えなきゃダメ?神崎くんそういうのちょっと恥ずかしいと言うか、告白とかあんまりしたことないから、そんな急に言われてもちょっと困っちゃうと言うかごにょにょ……。
…………。
……はぁーーーーーーーー。
そうだなぁ。

「細かいこと考えるほど、余裕があったわけじゃないよ。昨日話した通り、トリップしてすぐ死体とこんにちはだったし。状況に流されて、とりあえずどうにか逃げようと頑張ってたくらい。そこにたまたま……ピンチの人間が転がり込んできたから、うまく全部解決できないかなーって。元々、勢いとノリで生きてきたし。それでギリギリなんとかなってきたし。というか、強制的にギリギリだし」

「だからこそ、自分の身を守ることだけを第一に考えようと……思うものじゃないか?」

「えー、うーん。それはあんまり考えたことないなぁ。だって、自分だけ助かってもさ。ハッピーエンドにはならないじゃん。上手に解決できたスーパーラッキー。頑張るだけ頑張ってみただけでも、ラッキー。そんな感じ。第一……俺はサイキョーだから簡単に、死んだりはしないのです!」

「ハッピーエンド、か……途方もない話だな」

ハンドルをくるっと回しながら、ちょっと笑うお兄さん。

「なんだろうな、引っかかってるものがあって……そうだな……」

小さな沈黙。言葉が魚みたいに泳いでる、涼しい静かさ。
言いたいことを探すって、たまに釣りみたいだ。一番上質な言葉を釣り上げてやろうと意気込んで、静かに糸を垂らす。そいつが何を引っ張り上げてくれるかなんて自分にも分からないけど、じっと待ってれば目当ての言葉が釣り上げられる気がする。

「運命を変えるには代償だいしょうが必要……良く聞く話だろう?」

イタズラげに笑う相手の目を見れば、本当に言いたがっている事が何なのか分かってしまう。
……運命とか、代償とか。一体どこで気づいたんだか。
俺、原作のスコッチがどうなったかなんて話してないんだけどなぁ。気付いちゃうかぁ。
いつもみたいに惚けて、なかったことにしても良いんだろう。だけど、気持ちがすっかりだるんだるんにまったりしてしまって、なんだか空元気に誤魔化すには気力が足りてない。

「それは、何というか。天秤てんびんっぽい考え方じゃん?片方の先っぽに不幸が乗ってて、もう片方に幸運が乗ってる」

「うん」

「でも、それじゃあ揺れる直線じゃん。二次元的って言うか。ホントの人生はもっと立体的でさ、良いことと悪いことがどっかでもしかしたら繋がってるのかもしれないけど、シーソーみたいに単純なギッコンバッタンじゃないよ。何を良いこと悪いことにするかなんてのも、そう簡単なことじゃないし」

どんなに悪いことのように思えても、良いことだと言い張れば、その通りになる。見方を変えればだいたい良いこと。
そう言い張ってるうちに、本当にそうだと信じられれば、きっとラッキーであふれた人生だ。馬鹿っぽいかもしれないけど、俺はそういう考え方の方が好き。逆の考え方が――見方を変えればあれは悪いことだったんじゃないかと不安になるような考え方だ――これだけありあふれているんだから、一人くらい真逆を突っ走っても良いじゃないか。

「最終的に全部振り返った時に、良いことだらけだって笑えた方が楽しいじゃない?」

「どうやったって良い方に見れない出来事だってある……あの写真に写ってた幼馴染の女の子……あの子は……あの子が、東都水族館に行く前に誰の葬式に出ていたのか、心当たりがあったんだろう?」

「…………」

ああ。気にしてたのはそこなのかもしれない、と気付く。スコッチを救ったせいで、俺が元の世界に帰る資格をなくしたんじゃあないか、と悩んでいたんだろう。
でもそれはなんというか、杞憂きゆうだ。俺の現状は誰のせいでもなく、俺自身の責任。運命なんてもんがあるなら、俺の運命は俺だけのものだ。

「逆だよ。ここに来た時にはもう、俺は元の世界に帰る資格を無くしてた。ここに来たのがどういう仕組かはわからないけどさ。魂が生きてても、戻る体が海の底じゃあ、どうしようもないだろ?」

元の世界の俺がどうなってるのか、なんとなく分かっては居た。確信を抱いたのは今日だったけれど、まあ、たぶんそういうことなんじゃあないかとは思ってたんだ。

「それに、それこそ見方みかたによっては、ってヤツだよ。向こうでの俺のお話は一回終わっちゃったかもしれないけど、こうやって続いてる。……すっごく好きだった人の、本当は存在しなかった物語の続きを見れてる。それは、今の俺だけの特権だ。……そう考えると、ちょっとラッキーじゃん?元のお話よりもずっとずっとひどくなる可能性だっていくらでもあったのに、その中ですっごく良い可能性を引き当てたわけで」

「…………ふっ。物は考えようだな」

「そー。物は考えようなんです!」

はい、疲れたから真剣タイム終了!!そろそろ俺、恥ずかしさで溶けるから中止です!!
別の話しよ、もっと違う話。えーと、えーと。あ。

「そういやなんで元のおうちに帰ってないの?今外見さんのとこに身を寄せてる感じだよね?」

「ああ、そうなるな」

元スコッチおにーさんは苦笑しながら話題変更に付き合ってくれた。仕方ないなぁ、みたいな目で俺を見ないでプリーズ!シリアスには鮮度と言うものがあるんです。神崎くんのシリアスは生物なまものだから賞味期限切れ早いんですぅ!

「最初は赤井の事情に合わせていた。俺が生きていると知られたら今度はあいつが疑われることになるからな……。ライの正体が暴かれた後は、しばらく公安内の内通者を疑ってたから戻るのをためらってたんだ。あの時、どうして奴らにバレたのか結局分からなかったからな。神崎の正体も良く分からなかったし……」

あっ、俺のせい二割くらいありそう!?

「ふる……もう一人の潜入員が無事だから、内通者が居たわけじゃあなさそうなのは随分前から分かっては居たんだが。なんかタイミングを逃してそのままズルズル、な。だから、今は別に戻らない理由はないんだよなぁ」

そんなほわほわな事情でホームないない続けてたんッスか元スコッチおにーさん。

「お、見えてきたな。あの倉庫街のはずだ」

ちょうどいいタイミングで目的地についたので、車を降りる。なんか見覚えのあるような気がするとこだったから、車は目立たないところにそっと隠しておいた。
なんか純黒でバーボン・キール拉致らち事件が起きた場所に見た目が似ている気がするけど、きっと気のせいだよな!うん!

「あ、組織のヤツらが来る可能性もあるから気をつけろ、とのことだ」

着いてからそれ言いますかねスコッチおにーさん。
やっぱどう考えてもあの倉庫街じゃねぇか、ちくせう!中身なかみさんのばーか、ばーか、いつもありがとうございます!!

「――あ、ニット帽の人いた」

合流自体はすごくスムーズだった。と言うか、また外見そとみさんの中身丸出しじゃねぇか。ちゃんとしまっておいてといつもあれほど言って……ないな。中身さん丸出しな件についてなんだかんだちゃんと言ったことないわ。

「君たちが東都水族館に着目していたとは、驚いたな……また俺は君の計画からのけものか?」

冗談めいたそぶりで口角をあげる赤井おにーさんがクールダーティビューティ!さすがシルバーブレットコンビの片方!主人公のワトソン(自称)!!
……ん?最後なんか違うか?

「のけものにしてないですー!ご協力ありがとうございます!!マジで!」

どっからこの小型爆弾持ってきたかは聞かないでおきますね!いや、FBIの力だとは思うけど、ほんとどっから調達してきてんのこれ。

「現状についてはおおよそ理解していると考えて良いのかな?」

「ああ。リストの状態については神崎が知ってる。どうやら、組織側に送られた情報は不完全なもののようだ。ヤツらはキールとバーボンの正体について怪しんでいながらも、確信は抱いていない。NOCだと暴かれたのはまだほんの数人だ」

「あいも変わらず、舌を巻く情報網だな……分かった。やはり最優先は『彼女』の確保と言うことか」

「今は公安が確保している。安室がきっちり動いてくれたよ」

「それでは、これから奪い返しに来るヤツらを止める必要がある、と言うことだな」

「まあ……そうだな。奴らが仕掛けてくるとしたら――」

「東都水族館」

赤井おにーさんの言葉に、元スコッチおにーさんが頷く。神崎くんねぇ、あんまりお話についていけてない。キュラソー確保が大事、って言ってる気がするくらいしかわかんない。

「それで、俺が用意したそいつの用途くらいは聞かせてもらえるんだろうな?」

「念の為の、切り札みたいなものさ。いざとなったら、俺と神崎で軽い爆破騒ぎで民間人を水族館から避難させる」

「フム……あまり騒ぎを起こすのは得策とくさくではないように思えるが」

「よくわからんが、あの大きい観覧車が転がってくるらしい。あと最新の戦闘機が飛んでくる」

「……ホー?」

あっ、今何いってんだこいつみたいな目で見られてる!!あんまり表情変わらないけどたぶんそう言ってる!!

「分かる。そういう反応になるよなぁ」

「俺の味方が実質ゼロ!?」

でも本当なんです……ジンニキおにーさん、最新戦闘機たぶんオスプレイに乗って襲撃してくるんです……。なんでって言われたらたぶん、映画版だからだと思います……。派手な武器ってかっこいいよね!!!
元スコッチおにーさんに洗いざらい話した結果、原作に関わっている人たちにはあんまり余計な事は言わない方向で進めることになった。変に情報を渡して、知ってる展開を避けたいってアレだ。その上で、俺たちは観覧車の被害を抑えることに専念せんねんする。
だから一部協力してもらった赤井おにーさんにはホントかわかんない程度のことをこうして話すことになったんだが。
これ俺が変な目で見られてダメージ受けてるだけじゃ。今更失うプライドと信用情報はそりゃゼロだけどさ!クレカなんて持ってないよ!!

「……ん?あれは……」

赤井おにーさんが何かの気配を感じて顔をあげた。
あっ、あれは!

「きゃー!黒い雨ガッパさんだーー!」

「うん?それを言うならアマガエル……あ、神崎。倉庫の中に入ると、万が一の時逃げ場が……」

こんなに倉庫がたくさんなるのに、ピンポイントでこっちにくるなんてそんなまさからまさか。……って軽く考えたのは俺ですごめんなさいでしたああああ!。
適当に入った倉庫がそのままバーボン・キール拉致事件現場になるなんて誰も思ってなかった……え?思ってた?予想してなかったの俺だけ?そっかぁ。

『なんとかするから、何もせずに、じっとしてること。何もせずに』

元スコッチおにーさんから飛んできたメールから圧を感じた。なんでだろう。ただの文字から凄まじい圧を感じる。
とりあえずバイブはつけっぱにして隠れとこ。これでいつ合図とか、指示とか来ても気付ける!!
……ん?『今、いや切ろよ……!』みたいなテレパシーが飛んできたような……。気のせいかな。気のせいだな!神崎くん、エスパーじゃないからね!!
その後に起こったことは安室先輩に聞いてほしい。俺のせいではないことだけは主張しておきます!!大凶、これは大凶のせいです!!
俺が迂闊うかつとかそんなはずはないんです、本当です信じて!!


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