アネモネの白光 (1/1)


安室が無事に窮地きゅうちだっしたと聞いて、コナンはほっと胸をなでおろした。良かった。間に合ったのだ。

「すごいわね!!坊やの作戦大成功じゃない!!」

助手席から振り返ったジョディが感嘆かんたんの声をあげる。
彼女はFBI捜査官だ。運転席に座っているのはキャメル。同じくFBI捜査官。コナンの隣に座っているのはジェームズ。やはりFBI捜査官。
コナンがキュラソーとNOCリストについて調べていると聞いて、詳しい話をするために出てきてくれたのだ。

四人が合流したのと同じタイミングで阿笠博士に頼んでいたキュラソーのスマホデータ解析が完了したため、組織に連れて行かれた安室と水無怜奈――キールの名で組織に潜入しているCIAの諜報員だ――の安否を共に見守ることになった。現場で先回りしていた赤井から、組織のターゲットがキュラソーに移ったと聞いて、コナンが阿笠博士に頼んでいた作戦がうまくいった事を知った。

コナンがやったことは大した事ではない。キュラソーのスマホから最後に送られたメールを阿笠博士に修復してもらい、その送信先へとあるメールを送ったのだ。
キュラソーが最後に送信したメールの文面は途中で止まっているようにも読めた。よほど急いで送ったのだろう。

『ノックはスタウト、アクアビット、リースリング。貴方が気にしていたバーボンとキール』

組織もバーボンとキールがNOCかどうか判断しきれずに、ひとまず二人を直接尋問にかけることにしたようだった。ジンが真偽しんぎに関係なく二人を始末しようとした時は焦ったが、赤井がうまく時間を稼いでくれているうちに、キュラソーを装って送られたメールが組織の方に届いてくれた。

『ノックはスタウト、アクアビット、リースリング。貴方が気にしていたバーボンとキールは関係なかった。安心して。』

少しだけ続きを書き足したメールは無事に受信され、組織の興味は一時的にキュラソーの方に戻ってくれた。
だが、まだ終わったわけではない。ヤツらはキュラソーを奪い返すために東都水族館へと向かった。そこで襲撃が起きることは間違いない。NOCリストの有用性は高い。敵も本気でキュラソーと奪い返しにくるだろう。どのような手段を取ってくるかは予測ができなかった。

「東都水族館……」

「コナンくん」

考え込んでしまったコナンにジェームズが声をかけた。

「君は降りるんだ……ここから先は何が起こるかわからんからな……FBIに任せるんだ」

「……待って!ヤツらも水族館に向かったんだよね。もしかして……」

コナンはポケットから五枚のカラーフィルムを取り出した。束ねられていたフィルムを扇状に広げて、じっと真剣な眼差しを注ぐ。

「それは……?」

覗き込んできたキャメルに、見やすいようにフィルムを掲げるコナン。

「これは記憶を失った直後のキュラソーが持っていたものだよ。この色の配色をどっかで見た気がして、ずっと気になってたんだ……やっと分かった。この五色、東都水族館の観覧車を照らすライトとまったく同じだ。だから昼間に観覧車の頂上付近で記憶を取り戻しかけた。きっとこれだ。これがNOCリストの記憶媒体なんだよ!」

「そのカラーフィルムが……?」

ジョディは信じがたそうに、コナンが持つフィルムを見つめた。

「確か、キュラソーののうきゅうには生まれつきある損傷がある。普通の人と脳の作りがちょっとだけ違うんだ。だから、多くの事を一度に記憶することができる……まるでUSBドライブにデータを書き込むみたいに、見るだけで一瞬で……。それをコントロールしているのが、このカラーフィルムだったんだ……だから、記憶媒体をいくら探しても見つからなかった……」

「ふむ、なるほど……だが、何故、昼間は完全に記憶が戻ることがなかったのだろうか?」

「それはたぶん……色の濃度が、足りなかったから……?」

昼よりも夜の方が濃く、はっきりとライトの色は出る。はっ、とコナンは顔を上げて、車から飛び出した。スケートボードの上に飛び乗り、東都水族館の方向を目指す。

「坊や!?」

「急がなくちゃ!!このままじゃNOCリストが組織の手に!」

事件から降りろと言われた事はすでにコナンの頭から抜け落ちている。目と鼻の先に事件があるのなら、それに食らいつかずにはいられない。それが探偵と言う生き物だ。
焦る気持ちに背中を押されるまま、コナンはスケボーを東都水族館に向けて走らせた。


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