疑わないでラベンダー (2/4)


崩れそうになっている観覧車からとりあえず離れて、林みたいなところに出る。元スコッチおにーさんとコナンくんも一緒だ。
さっきまで晴れていたはずなのに、急に雨が降り始めて、もしかしてと思う。
元スコッチおにーさんに連れていかれた先にはいつもの安室先輩、中身が丸出しの沖矢昴こと赤井おにーさん、現実では初めて見るキュラソー。そして懐かしい幼馴染の姿があった。
何か喪服着てるし、その喪服もあちこちボロボロだし、本当に何してたの委員長……。ああ、頭もなんか怪我してる……血の跡が……。

「頭、大丈夫?」

「…………もうちょっと、いつも通りじゃないくんで居て欲しかったなぁ」

安心するけどさ、と委員長は呆れた顔で笑った。
そーーーっと委員長の周りをぐるぐる回って確認してみるが、大きな怪我はなさそうだった。良かった、良かった。

くんも怪我……してなさそうだね。ビショビショだけど」

「水もしたたるいい男!」

「もう、絶対そう言うと思った。またそのメイクしてるし……」

「また引かれてます俺!?」

完成度上げてきたのにそんなに不評ですか赤神崎モード!?ハンカチで顔ごしごしするほど不評!?え、泥がついてる?はい、フキフキお願いします……。

「よし、綺麗になった」

「かっこよくない?ねえ、今俺かっこよくない!?」

「私の好みとはちょっと違うかな……」

「好みかー。個人の趣味嗜好なら仕方ないやぁ」

赤じゃなくて青とかの方が良かったかなぁ。でも神崎くん赤が好き。
あ、そうだあれ聞かないと。

「こっちに来た時さ。トラックにひかれたとかじゃないよね?」

「え……なにその怖い状況。ううん、普通に、急に雨が降ってきて、それで気付いたらこっちにいたの」

「そっか。良かった。なら、あれだな。……そろそろだね」

「そうなの?」

「雨、これからすげぇ土砂降りになります」

「そんな帰り方なんだ……。……くんは……?」

「俺が帰ると元スコッチおにーさんが寂しがるので!」

「誰が元スコッチだ」

だって本名知らないし……。色んな偽名使うから良く分かんないし……。

「……本当に、泣かせてもくれないんだから」

委員長が恨めしげなんだか、楽しそうなんだか良くわかんない顔で言った。

「楽しい方が良いと俺は思いまーーす!」

神崎くんはジメジメ嫌いです。海も諸事情により苦手です。
そんなやり取りをしてるとキュラソーおねーさんが吹き出した。わ、笑った!!わあ!!言葉にできない!わあ!!これが少年探偵団の気持ち!……あの子たちの方がちゃんと感想を言葉にしてたとかそんなはずは。
目が合うとキュラソーおねーさんが微笑んでくれた。えっ、初対面なのに好感度が高い。
神崎くんからの好感度?そっちはもうカンストしてるよ!

「初めまして……と言うのも変かしら?貴方は私のことを知っているのよね……」

「なんとなく!!委員長が良くお世話になっております!!」

「世話になったのはどちらかと言うと私のほうね……」

「え?そう、か?そっかぁ。委員長、世話焼きだからなぁ」

くんに言われたくないんだけど……」

「俺は世話焼かれる方です!!」

「あーーーー。うーーーん。基本的にはそうだね……」

あ、否定されないのもそれはそれで悲しい。
雨足が強くなる。ゆっくりと、でも確実に。やがて、前も見えないほどの大雨になるだろう。……好奇心でちょっと舐めてみたけどしょっぱくなかった。俺の時と違う!良し!!

「向こうでも元気でやるよーに」

「……うん、そっちもね」

「ハグでもする?」

「……うん」

あ、マジですか。
近付くと、委員長の頭が俺の肩ぐらいの高さにくる。身長差、増えたなぁ。昔は横並びで手を繋ぐと同じ高さとかだったのに。

「身長差、開いちゃったなぁ」

なんか委員長も同じこと考えてた。……まあ、幼馴染だもんなぁ。考え方も似てくるよね。居るのが普通、って思うくらい一緒に居たんだから。

「まあね。俺、よく食べる子なので」

「偏食のくせに。ウソツキ」

「うぐぅ」

……でも、ここからは別々の道だ。目指したい場所が違ったから。きっと、これはそんな感じ。それに委員長、こっちにフラッと来たみたいだから、また来れるかもしれないしね!!

「はい、どうせなのでキュラソーおねーさんともハグー!」

「あ、わっ!もうっ、ちょっと!ご、ごめんキュラソー!!」

「ううん、嬉しいわ。お別れが名残惜しいもの……出来れば一緒に行きたいけれど……」

「……ふふ。そしたら私も嬉しい。でも、無責任に来て欲しいとは言えないよ。きっと違う世界に行くって、すごく大変だから……。あれ、でもくんが何とかなってるなら、大丈夫なのかな?」

「ふ、不服!!でも何とかなったよ!記憶喪失って言い張れば!!あと委員長もなんとかしてる」

「私はほら、一日だったから」

キュラソーと委員長が一回離れる。けれど手は繋いだままだ。二人とも名残惜しそう。
本当に仲良くなったんだなあ、って。不思議と、その事実に一番心が揺さぶられた。
なんだか、なんだろう。生きてるなぁ、って。委員長も、キュラソーも。今、俺の前で生きている。本当なら有り得ない組み合わせの二人だからそう思うのかもしれない。

「一つだけ、お願いしても良いかしら……」

「うん、何でも言って」

「約束よ。名前を教えて欲しいの……出来れば、貴方の口からちゃんと聞きたいわ……」

「あっ、そ、そうだね。えっと、私は。私の名前はね……その……」

「委員長、本名名乗るの難しい人みたいになってる」

ちなみに俺の周りにはそんな人がたくさんいる。不思議だなァ。

「い、今さら言うのもなんか恥ずかしいの!えっとね、私の名前はね……」

轟音が降り始める。隣にいる人の声さえ、大声をあげないと聞こえないくらいの大雨だ。
そんな視界すらも奪う雨の中、キュラソーと委員長は手を取り合い、見つめあっていた。
篠原千束
委員長の口が動くのがなんとか見える。聞き慣れたその名前をちゃんと耳で拾えた気すらした。
……元気でね、千束ちゃん。

すると委員長が消えた。キュラソーと一緒に。
…………え?
あ、そういうシステム?そばに居た人も一緒に連れてかれちゃう的な?……あ、そういや俺も車ごと時代超えたんだっけ?
思わず元スコッチおにーさんと顔を見合わせる。なにゆえにそんな残念なものを見るような目で俺を見ていらっしゃいます?

神崎…………」

「えっ!?今回は俺のせい違くない!?」

「それでも俺はお前が悪いと思う」

なにゆえにゴリ押し!?


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