幕間V (1/1)
キュラソーが消えたらしいとジンに伝えられて、ベルモットは目を見開いた。
長髪で隠した、耳にかけたインカムを抑えてジンに訪ね返す。
「どういうこと!?キュラソーが消えた……」
『作戦変更だ…キュラソーを始末する!!』
「せっかちね……まだ彼女が裏切ったとは」
そう言いながらも、ベルモットはあまり驚いていない自分に気付いた。
やはり、あの少女に関するキュラソーの言葉は妙だった。ラムが送ったと言うことで、一瞬でも組織を惑わせれば良かったのだろう。ジンがあの少女を始末するまでの時間を稼ぐために。そのわずかに稼いだ時間で逃げ出した、と言うことだ。
しかし、そうなるとあの少女は本当にキュラソーの妹だったと言うことだろうか?
信じがたい思いを抱えながらも、ベルモットにはそうとしか説明をつけられなかった。
(また、貴方なのね……キュラソーの元に本当に妹を送りつけたということかしら……)
『ゴンドラから離れた理由……逃げた以外に考えられるか……すぐにキュラソーを見つけ出せ!!』
「ジン、一つだけこっちからも報告があるわ」
キュラソーに対して特に親愛の念はない。
だが、あの男が関わっているかもしれない少女が巻き込まれ、キャンティとコルンに狙撃されかけた事に対しては、少し思うところがあった。あの男の借りを裏切ってしまったような落ち着かなさがあったのも確かなのだ。
勿論、そんな些細な感情に振り回されて動くつもりはない。
だがベルモットの損にならない程度なら、少しくらい時間を稼いでやる気にはなれた。
「赤髪の男が動いているわよ」
『……なに!?』
ベルモットの予想通り、ジンの注意は一気にそちらに引き込まれた。
「東都水族館に来ているみたい。さっき、水族館内の館内放送から彼の声が聞こえたわ……水族館内に爆弾を仕掛けたと言っていた」
『何が目的だ……』
「さあ……キュラソーが乗っている方の観覧車が爆発したみたいだけど、見てはいない?館内放送室の方からも小規模の爆発があったわ……。相変わらず不気味な男……。今はキュラソーのために集まった公安が一般市民の避難をさせているところよ……悪いけど、私は先に離脱させてもらうわね……無理に居座ったら怪しまれるもの……」
手短に通話を切ろうとした時だった。
『わかった……、!?』
「えっ……電気が……復帰した?」
ベルモットが座っているカフェの明かりが灯ったのだ。避難待機をしていた客たちがざわめき始める。ベルモットは慌ててノートPCを操作して、原因を調べる。
『アニキ!!観覧車の麓です!赤髪の男がいます!!!』
『なんだいアイツ!こっちに手を振ってやがる!!見えてんのか!?』
『……地面が、水びたし。何、してる?』
ジン以外の幹部たちの声も聞こえてきた。急に明かりが復帰したことで混乱しているようだ。
『どういうことだ、ベルモット!!』
「待って……なるほどね。向こうも、電源の制御をあらかじめ奪っていたみたい……でも雑な仕事ね……これならすぐにコントロールを取り戻せるわ。5秒待ちなさい……」
もう一度、停電指示を送ればいいだけの話だ。ほんの後5秒間明かりが復帰したところで、何ができると言うのか。ベルモットはキーボードを叩きながら眉根を寄せる。
たかが5秒。しかしキュラソーが逃走していると考えると、貴重な5秒だ。
停電が赤髪の男の仕業だとすれば、どうにも彼がキュラソーを助けるために動いているようにしか思えない。
あの男は悪人・善人問わず、困っている人の味方だとでも言うのだろうか。まるで、ヒーローみたいに。
「これで明かりがまた消えたわよ……私はもう行くわ……」
そんな人間がいるわけがない。
そう自分に言い聞かせながらも、ベルモットの胸には小さなしこりが残った。
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