I was not your verbena (2/3)
記憶を取り戻して最初に思い出したのが、自分の死の間際の姿だった。
組織のNo.2であるラムに拾われる前の自分。組織の情報を知りすぎて、危険視された結果、始末される寸前だった頃の『キュラソー』だ。
あの時始末に来たのはベルモットだった。
ベルモットはキュラソーの能力がいけないのだと言った。
見たものを瞬時に記憶する能力。その能力故に、殺されるのだと。
『結局、これが貴方の運命だったのね……さようなら、キュラソー』
そこから助けてくれたラムは、逆にキュラソーの能力を欲した。その有用性に目をつけて、様々な任務にキュラソーを送り出した。
『キュラソー、キミには『色』がない……あるのはただの純黒の闇。その闇がキミを苦しめているのなら……他の『色』に染まればいい……』
レッド。ブルー。ホワイト。オレンジ。グリーン。
その場に応じて、どんな色にでもキュラソーは染まった。任務のためにはどんな姿にもなった。だけど帰ってくるのはいつもここだ。混じりけのない純黒に染まった場所に魂が溶け込んでいく。
そのはずだったのに。
「キュラソー!しっかりして、キュラソー!!」
心配そうな声がキュラソーの意識を引き上げる。真っ暗闇から救い出して、光の射す方へと導こうとしてくれる。
涙がかった少女の声に、早く戻らなければと気が焦る。
――本当は少し怖かった。
記憶を取り戻した瞬間、元の人格がこの温かい気持ちを塗りつぶしてしまうのではないかと恐れていた。
でも大丈夫。
貰ったものはまだ胸にしっかり残っている。子どもたちと、少女と一緒に遊んだ時の、ほんの一滴の暖かさが、闇を違う色に染めていく。それはキュラソーの知らない色だったが、陽光の差すステンドグラスのようにキラキラと輝いてみえた。
『貴方はキュラソー』
そう、私はキュラソー。どんな色にでも染まるキュラソー。
何色だって構わないのだけれど……純黒に染まっていた頃の自分よりも、今の方が気分が良い。
この何色でもないキュラソーの方が良い。
きっと、ただそれだけの話なのだ。
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