大凶ヒーロー、運び込まれる (2/3)



俺が吐いたたった一つの嘘。
そこからすべての虚構が剥がれ落ちていくような気すらした。

「でもお兄さんがNOCだったって言うのは嘘だよね?」

名探偵が不敵に笑う。
真実を確信した瞳にこちらが気圧されそうになる。

「銃が使えない潜入員なんてありえないよ。自衛もできない状態で危険な組織に潜り込ませるわけにはいかない……」

「もしかしたら、使えないフリをしてるだけかもよ?」

「スコッチを人質に取った場面……。あそこで君が銃をちゃんと構えていたら、こちらもその可能性を疑えたのだがな。
君はあの時もグリップを低い位置で握っていた。ああ持てば、確かに鈍器として使いやすくなるが。オススメはしないな。暴発の危険性がある」

「そりゃ身に染みてますよ……」

うっかり真犯人さん殺しかけてるからね俺。
そんなことしたら前科歴がついちゃう。

「――安室さんがNOCだってこと、否定しないんだね」

えっ?
……………………。
…………………………あ、やべっ。

「やはりそうだ。君は彼の正体を知っている。俺の正体もな……」

「そもそもNOCが悪い組織に潜入してるスパイのことだって、お兄さんよく知ってたね」

「……NOCのことはベルモットおねーさんに教えてもらったから」

「ホー……君は、随分とタイミングが良いんだな。灰皿が見つかった当日に、駆けつけて……巻き込まれたベルモットを保護するとはな」

あ、それはただの大凶です。

「あの時も思ったことだ……君は組織に詳しすぎる。その癖して、銃の使い方は素人……君は……」

「お兄さんは……」

シルバーブレット二人の鋭い視線が俺を射抜く。

「「何者なんだ?」」

ただの一般人です。
チートなのは原作知識と大凶運だけです。大凶さんとはいい加減におさらばしたいです。

「ギブアップか、名探偵ども?」

「「……………………」」

二人の眉がぴくりと動く。
わかりやすくプライドを刺激してしまったらしい。
やめて、これ以上こっち見ないで!神崎君のHP(ライフ)はもうゼロよ!!平穏ライフの残り時間もガリガリ削られてる音がするなぁ。

「……お兄さんはなんであそこにいたんだろうね」

「ホテルのこと?そりゃあパッソなんとかさんに呼ばれたから……」

「嘘だよね」

あ、はい。
嘘です、トリップしてきました。

「カーディナルが死んだのはお兄さんが現場に来る前……。
だけど、お兄さんが隠し通路から来たなら……犯人であるパッソアとはちあわせちゃうよね?ジンが来てたから、他の部屋にも隠れるところはなかったはずだし」

「第一、ジンに君を目撃させたところで罪を擦り付けるという目的は達せられるはずだ。
後は、その場で始末してしまえば君が事件を引っ掻き回すこともなかった。だがパッソアはホテルで君を始末せずに、見逃した……。そして後になってあの廃ビルまで慌てて追いかけてきた……」

「そうか、パッソアは一度犯行現場を離れてるんだ!パッソアはカーディナルを殺して……一度、隠し通路から逃げ出した。
それから、もう一度データを取りに戻ってきた……?だが、何故すぐにデータを取りに行かなかったんだ……?」

突然トリップしてきた俺にびっくりして逃げ出したからですね。
あの化け物見るみたいな顔、傷つくわー。確かに化け物みたいなメイクしちゃってますけどさ。

「パッソアがいない間に、隠し通路を通じてこの男が現場に侵入したということになるが……」

「なら、なんで帰りは使わなかったんだ?
ジンとウォッカをぶっ叩いてから、わざわざ正面から帰る理由なんてないはずだ……」

ハッとした顔で少年が俺を見上げる。

「隠し通路を使わなかったのは…………単純に……知らなかった、から……?
でも、それならどうやってあの部屋へ……」

「……………………」

…………だから、名探偵怖いって。

「トリップしてきたのさ」

「麻薬か?」

「それじゃねぇ」

どんだけ殺伐した日常送ってんだよFBI捜査官。
アメリカか。アメリカで暮らしてたからなのかその発想は。

「ま、死んだ男にでも聞いてみりゃあヒントくらいはでてくるかもな。倉庫で焼け死ぬ前に、何をしてましたか、ってな」

「それって……」

玄関のベルが鳴る。
誰だよこんな夜中に。
予想外の訪問者だったらしく、名探偵二人の顔がこわばる。

「…………ボクが見てくるよ!赤井さんは……」

「俺が着替える必要があるなら、時間を稼いでくれ。そうでなければ、この男を見ている」

「うん!」


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