大凶ヒーロー、撃ち抜かれる (2/2)
Q.探偵が二人。大凶に愛されし一般人が一人。さあ、犯人役は誰でしょう?
A.神崎君フルボッコタイム、はじまるよ!
「お兄さん、元から安室さんを撃つつもりなかったよね?」
「そう見える?」
「うん!」
あ、近寄ってこないで。
タンマ、タンマ。
俺が悪かったからそのエンジェルみたいな笑顔で寄ってくるのはやめて。
こういうとき、どうしたらいいのか神崎君わかんない……。はじめてなんだもん……。
「だってボクが近づいても銃を拾わないし…………スマホ、再生アプリが立ち上がったままだよ」
げっ。しれっとポッケの中身すられた。
名探偵少年の笑顔の隣に俺のスマホ。
スマホ画面には音楽再生アプリが立ち上がったままだ。ぽちっとそこをコナン君が押す。
ら、らめぇ。
『パシュ』
「サイレンサー付きの銃撃音……。さっき聞こえたのはこれだよね?
だから街中で撃ったのに跳弾の音がしなかったんだ」
「こんな場所で打てば、銃弾はアスファルトにぶつかる。本来なら、アスファルトの破片が砕ける音も伴うはずなのだがな……」
何であんたらはそんな物騒なこと知ってるんだよ。
特にそこの中身高校生のショタ。
「こんなもの用意して、拳銃もセーフティーがかかったままなのに、本気で安室さんを殺すつもりだなんて言わないよね」
「へぇ、じゃあ。なんで俺はこんなことしてるわけ?」
なんだ、このジワジワ追い詰められてるような危機感は。
あれ、神崎君悪いことしてないよね?銃刀法違反にはなるかもしれないけど、むしろ実はいい奴だったって発覚してるところだよね?
なんなんだ、この真実を認めたら死ぬかもしれないみたいな危機感は。
犯人だからか。犯人だからなのか?
神崎君はいつの間にあの全身真っ黒タイツの犯人さんになってしまったのだ……。……あ、犯人さんのMMDってあるの知ってた?
「それは安室さんの口から真犯人の名前を出すため……でしょ?」
「…………へぇ?」
「君はジンが聞いているところで、パッソアの名前を出させたかった。バーボンの推理ならば、ジンも動かせると考えたからだ……」
「……そこまでバレてるなら仕方ないなぁ。そういうことだよ。身に覚えのない罪で追われるって気持ち悪いじゃん?」
「いいや、真犯人が発覚したところで組織は君を追い続ける……そんなことはわかっているだろう……。
君の本当の狙いは……『事件を終結させる』ことだ……。二度と、誰も調べ直そうとは考えないように…………」
「組織にもFBIにも今までみつからなかったんだ……お兄さんなら証拠品が出てこようが出てこなかろうが、逃げきれる自信はあったでしょ?」
今んとこフルメイク姿しかバレてないからね。
むしろこのまま出てこない方が安全だった説だいぶあるあるだよね。
「しかし君は再び安室くんの前に現れた。
己の生存を組織に知られるというリスクすら犯して……そして……。
あるはずのない火傷の跡を偽装して……」
「そこはベルモットにメイクしてもらったんだよね?事件を終結させれば、ベルモットにかかった疑いも晴れるんだから、協力しないわけがない……」
「その火傷跡を見れば、君の目的は明らかだ……。もっと早くに気付けばよかったよ。君があのとき、俺の言葉の意味を正しく理解していた時点で……。捉え違えていたのは俺の方だったというわけだ」
なんだろう。
この、今までうっかり撒いていた失敗が総回収されてる感じ。
マジ怖いんだけど。
「君は俺に言ったな……『状況は思った以上にシンプル』と……。その通りだ、あの場にいた者たちの思惑は、あの時だけは全員一致していた。俺も、そこで眠っている安室くんも、そして君も……。
ふたを開けてみれば、全員スコッチを逃がすために動いていたというわけだ」
「その火傷を負った姿で安室さんの前に現れた時点で、お兄さんの目的はほとんど達成されていたんだよ。
スコッチが倉庫とともに焼け死んだことを組織に信じさせるって目的が……。
よりにもよって安室さんに確認させるってところは……相当歪んでると思うけどね……」
だって神崎君、バーボン狙いだって思われてるし……。
ノンケだとか冤罪だとか言っても、信じてくれそうになかったし……。
「だがこれでパッソアの容疑が確定すれば、スコッチの死に目が行くことはない。
君に協力したことがバレればベルモットもややこしい立場に立たされることとなる。君の火傷跡が偽装であることを彼女が自ら明かすことはないだろう。
後は君がその物騒なメイクを全て落として……元の生活に戻れば真相は闇の中というわけだ……」
「スコッチサンは俺に巻き込まれた、ただの哀れな犠牲者……でめでたし、めでたし、ってな」
なにもめでたくないけどな。
ライに追い詰められてスコッチごと倉庫を燃やした神崎君は相変わらず頭おかしいサイコキラー扱いだからな。
ふと足元を見下ろす。
ここで安室さんが起きたら不味い気がする。
基本的に公安ズのポーカーフェイスには期待してない神崎君である。
スコッチ関連だけはテメーもだめだバーボンこと降谷零。
それに、と赤井さんの方をちらっと見る。ほんとになんであんた素っぴんで出歩いてんの。
「今日はいい夜だねぇ。……ちょっと夜の散歩にでも行く気分なんだけど、付き合ってくれっかい?」
「動くなと言ったはずだが?」
「俺を撃つのか?FBIのダークなヒーローさん」
「………………」
「赤井さんのこと、知ってたんだね。たぶん、スコッチが死んだあの時にはもう……」
「おにーさんたちの話、もう少し聞きたくなったよ」
――お手並み拝見と行こうか。
今度こそ、俺をサイコにしないでね。
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