回顧 (1/1)



十年ぶりに見た夢はくそったれな夢だった。
知らないハゲが死んでいる。
ぽかんと開いた口が間抜けだった。
夢は深層心理とやらを表すらしい。ならこれは何を意味しているんだろう。
ここは棺みたいに息苦しい。
見た目だけはホテルみたいに綺麗なのに窓一つない。
そこに俺は死体と二人きりで閉じ込められている。
――いや。
もう一人いた。
冴えない男だ。
黒子みたいに全身真っ黒の男。サングラスで顔は見えない。
だと言うのに、その黒いレンズの奥にはいっぱいいっぱいの恐怖が湛えられていることを俺は瞬時に理解した。
一歩、俺が近付く。
一歩、男が後ずさる。
ぽろりとその手から、黒いダイヤモンドみたいに輝いているものが落ちた。
いや、ダイヤモンドにしては大きい。それに重そうな音がした。

「ねぇ」

「ひっ……」

声をかければ脱兎のごとく逃げだす男。
どこに行くと言うのだろう。
この部屋に、俺の夢に、逃げ道なんかないはずなのに。
そう思った俺の予想に反して、男は逃げてしまった。
男が壁にへばりついたかと思えば、人一人分だけ通れる穴がそこに空いたのだ。
男は壁にぽかりと空いた穴に消えていった。音もなく、穴がすぐに閉ざされる。
部屋に残されたのは俺と死体だけ。
だから俺は。
早くこの夢を終わらそうと思って、そのピカピカに光るダイヤモンドを。
――銃を手に取ったんだ。

冷たい現実感が重みを持って手のひらに広がった。


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