大凶ヒーロー、女神に会う (2/2)



ひっ。
怖い銀髪のおにーさんの名前が聞こえてつい足を止める。
そうだった、ベルモットおねーさんのバックにはあの目つきのやたらと悪いおにーさんがいるんだった。

「裏切り……?いったい何の話をしているの」

なんだろう、今全力でここから走って逃げなきゃいけない気がしてきた。
待って、お姉さまホントに何の話してるの。
イケナイお話?

「クリスタルの灰皿?」

路地に寄りかかって、足を止めているベルモットおねーさん。
こっちから見える横顔は相当に動揺している。長くて細い眉毛が眉間に寄り、怖いけどちょっと悩ましげだ。
美人って本当に何をしていても様になりますね……!

「ええ……拾ったけれど。ジン、あなたがどうして知っているの?――パッソアが?あの男、さっき急に私に銃を……え?バーボン?急に何の話?」

あかん。
話の流れはまったくつかめないが、これはあかん。
ベルモットおねーさん、スコッチ君救済事件に巻き込まれてません?
なんなの、なんで俺の目の前でそんな話するの大凶なの?
別れたはずの良心がヒリヒリ痛んじゃうでしょ!もう高木刑事のせいでズタボロのハートにトドメ刺されちゃう!!

「待ってジン。話について行けないわ。カーディナルってあのイカレた男に殺された奴でしょう?スコッチとか言う男を巻き込んで焼け死んだって言うあの……」

そのイカレた男ってもしかしなくても俺ですか。
焼け死んだサイコ野郎って俺ですか。
赤井さん、ちゃんと約束守ってくれたんだー。そっかー、俺もスコッチもちゃんと死んだことになってるかーHAHAHA!
……あー…………いっぺん人生やり直してぇ……。

「悪いけど、会ったこともないわ。灰皿は…………っ!?」

「こんにちは」

後ろからベルモットににじり寄ってお口をチャックさせる。く、唇がやわらかい……いや、立ち去れ煩悩!今はお前に惑わされている場合じゃないんだ!!
推定何人も殺してる男ジンと繋がっているスマホを取り上げて自分の耳元にあてる。

『その声…………』

背筋がぞわっとした。
怒りMAXじゃないですかやだー。

「おお、怖っ!」

『忘れもしねぇ……カーディナルを殺ったやつだな?』

「おにーさんを灰皿でぶっ叩いた本人でもあるなぁ」

『このイカレ野郎が……』

おっとお。
サイコ野郎とは思われていない代わりにイカレ野郎と思われているようだ。
よかったよかった……いや、どっちも変わんねぇよ!
やめて、神崎君そんな悪いことしてないよ!おにーさんを灰皿でぶっ叩いたくらいしか心当たりはないよ!あとは冤罪なの、信じて!!

「………………」

俺とジンおにーさんの会話にベルモットが目を白黒させている。
声が出せたなら「どういうこと?」って聞いてきたんじゃないかな。今ベルモットおねーさんに口を出されたら話がややこしくなりそうだから、ちょっと待っててね。
後で説明するから。
スマホを持っている手の人差し指を立てて、唇にあてる。今は黙っててねポーズだ。
後でちゃんと俺がホモでもサイコでもイカレてもないって説明するから……。
イカレてるとしたら俺の大凶運だけだから……。

『生きていやがったとはな……』

「あはは、ばれちゃった」

一番ばれちゃいけない人に生存がばれた気がする。
やめて神崎君を探さないで。赤白ボーダーストライプのシャツ着て町中に紛れ込んだりとかしてないから。
かくなる上はせめて、ベルモットおねーさんをかばってみるしかない。

「お仲間はもらっていくぜ、おにーさん」

『待て!ベルモットは――』

ピッ、と通話を切って、そのまま電源をオフにする。
狐につままれたような顔をしていても美人なベルモットにスマホを丁重にお返しした。

「ねえ、おねーさん。お願いがあるんだけど」

「……何かしら」

受け取ったスマホを不思議そうに見つめていたベルモットが顔をあげる。
澄んだ青い瞳が俺を見つめている。ドキドキしちゃう。
恐怖とかじゃなくてほんとに胸がドキドキで張り裂けそうだ。

「俺と、一緒に来てくれませんか?」

神崎、一世一代の告白だ。
生まれて始めての告白が伝説の女優相手だなんて、俺は相当ついてるんじゃないだろうか?


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