大凶ヒーロー、女神に会う (1/2)



目と鼻の先に絶世の美女がいます。

「まさか、駐車場に連れ込まれるとはね……」

弁明をさせてください。
俺は無実です。ベルモットおねーさんに手を出したりなんかしてません。
バーボン君に手を出すためにまずはベルお姉さまから……なんてゲスいことはしてませんとも。
本当に無実なんです……!

「あなたは誰なのかしら?」

「俺?ただの一般人ですよ」

思わずベルモットを適当な車の陰にひっぱりこんでしまったけれど、ちゃんと理由があるんです。け、けけけけけ決して不埒なことをしたかったわけでは……。

「…………そう。まあ、いいわ。今はお礼だけ言っておくわね」

声を潜めて二人でひそひそと話し合う。
黒に包まれたたわわなアレがすぐ傍にあって神崎君はドッキドキです。さ、流石伝説級の女優。
顔も体つきも欠点一つない完璧な女神さまだ。こんなに近くにいていいんですか。
二人で車の傍にしゃがみこんで隠れていていいんですか。セダンの横にもぐりこんだ美女の隣に神崎君は今いますよ……!
やべぇ、俺今確実に変態だ。
ここは紳士に。紳士に、がっつきすぎないようにしなければ。
女性はスマートな男性が好きなんですよね。スマートな男性だったら好きになってくれるんですよね!?

「おねーさんみたいな美人を助けるのは当たり前だよ。あの男、行き過ぎたストーカーか何か?」

すぐ傍でうろついているはずの、ベルモットおねーさんを銃殺しようとしていた男を思い出す。
ちょっとショートカットをしようと思って裏通りに入ったら、怪しげな男にストーキングされている伝説の女優様を見つけてしまったのだ。
もうこれは隠れるしかない。
助ける?無理無理。助けようとしてノコノコ顔を出した瞬間に「あなたが手を出したせいで作戦が台無しじゃない。責任とって死んで?」なんて言われた日にはどうすりゃいいんだよ。
嫌だよ、美女の手でも昇天させられるのは。
あのベルモットが自分のストーカーの存在に気付いていないはずがない。
そう判断して見守っていた俺の予想に反して、ベルモットは背後から無抵抗に撃たれてしまった。
え、これも作戦?とか思ってたらそのまま殺されそうになってた。
なんでだよ。マジでなんでだよ。
こんな事件原作であった?なに、読者の見えないとこでベルモットさんよく死にかけてるの?ヒロインなの?
撃たれた足をかばいながら逃げてきたベルモットおねーさんを無言で回収してすぐ傍の駐車場まで連れ込んだ俺。
あわよくばまたロックかけ忘れた車とかないかな、と思って。
…………神崎君、犯罪者じゃないよ?ほんとだよ?

「そうね……ただのストーカー、だといいのだけど……」

ベルモットおねーさんの表情は不可解そうだ。
眉間にシワを寄せながらもごそごそと動きながら足の手当てをしている。美しいおみ足が、見えた……!
手当の手際もいいですね、クリス・ヴィンヤード様!!

「警察に助けを求めた方がよさそうだね」

ベルモットの正体に気付いていないフリをしてしれっと言ってみる。
大女優クリス・ヴィンヤードだってことにも気付いてませんよ?
俺、一般人ですからね!

「それはダメよ」

「え?」

やっぱりか、と思いつつも驚いたフリだけはしておく。
ですよね。
組織がらみの事件かちくしょう!

「助けてもらったことは感謝してるわ。でも、今日のことは忘れなさい」

「忘れなさいって……」

「世の中には知らなくていいことがたくさんあるのよ。平穏に暮らしたいのなら、こちら側に足を踏み入れるべきではないわ」

そう言って、躊躇なく立ち上がるベルモット。
あ、白い二本の足が目の前に……じゃなくって。
慌てて車の向こうを確認したけど、さっきの男にはまだ見つかっていないようだった。ベルモットおねーさんならこのまま逃げ切ってくれそうだ。

「あら……」

数回のコール音。
シンプルなリングトーンはベルモットにぴったりだ。まあクラシックが流れても、ポップでゆるふわなアイドル曲が流れても俺はきっとベルモットにぴったりって言っちゃうんだけどな!
何をしてても絵になりますね、ベルモット女神さま……!
裏通りに向かいながら着信に出るおねーさんの後姿を眺めつつ、俺も立ち上がる。
逃げていいなら巻き込まれる前に逃げるが一計、ってね。

「ジン?」

「………………」


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