大凶ヒーロー、天使に会う (1/2)
ニコニコしてる小さな名探偵が目の前にいます。
これからドッキドキの推理ショーがはじまるようで、心臓がバクバク言ってる神崎君です。
ここで問題だ。
この部屋に居る人数は二人。謎解きをするコナン君とそれを聞く神崎君。
神崎君の役割は何でしょう?
A. 犯人役。
……俺何も悪いことやってないよ!?
「こんにちは、小さな名探偵さん」
蝶ネクタイの少年は驚いたような顔をした。
「ボクのこと知ってるの?」
「……キッドキラー、だろ?」
やっべ、墓穴掘った。
よかった、コナン君がこっちの世界でも有名人で。
「昨日ぶり。よく俺の病室がわかったね」
「看護師さんに聞いたんだ!交通事故で入院してるお兄さんに会いたいって!」
「……どうして俺が交通事故に遭ったって?」
やだ名探偵怖い。
何この子、見ただけで何の患者かわかっちゃうの?新手のお医者さんかなにかだろうか。
「だってお兄さん、こんなに暖房が効いてるのにずっとネックウォーマーを付けてるんだもん」
言われて思わず首元を触る。
高木刑事にもらった黒いネックウォーマーがそこにあった。首元を隠すものがほしいってうっかりぼやいたら次の日に持ってきてくれたのだ。
本当に……いい人です……。
「お兄さんオシャレそうだからサポーターでも隠してるのかな、って」
「なーるほど。で、首を痛める原因って言うと……」
「ムチウチ症。首の捻挫かなって!あちこちに湿布が貼ってあったから、全身を地面に打ち付けるような事故に遭ったんだろうってことはすぐわかったよ」
交通事故以外の原因で全身が吹っ飛ばされてたらこんな軽症で済んでるはずないか。医者には回復が早すぎるってドン引きされたけど。
「でも火傷跡とかを隠しているだけかもしれないぜ?」
「うん、それも考えたけど……お兄さん、ボクにペットボトルを見せた時ちょっとしゃがんだよね?」
あの時か。
名探偵の目が鋭くなってちょっと怖かった時だ。
「あの時、腰をかがめないでわざわざ膝を地面についてボクと視線を合わたでしょ。だから、首とか腰があんまり曲げられないのかな、って」
「正解だよ、小さな名探偵君。事故ってからあちこちが痛くってなー。適度に曲げとかないと固まるらしいんだけど、やっぱ痛くってさ」
ケラケラと笑ってみますが、内心ガクブルです。
名探偵怖ぇ。
なに、俺地面に膝をついてコナン君と目を合わせてたの?ぜんっぜん覚えてないんですけど。
この子の脳みそどうなってんの。
「交通事故に最近遭った、長めの茶髪のお兄さん、って聞いたら看護師さんたちもすぐにわかってくれたよ!お兄さん、記憶喪失なの?」
おーい、個人情報漏れてますがな。
子供相手とは言え、看護師さん達喋りすぎ!
「らしいよ?」
「でも……ニュースのことはわかるんだね」
やめろ、ちょっと声を低くするな。
やっぱ俺墓穴掘ってんじゃん!記憶喪失なのにキッドキラーのことだけは覚えてるとかやっぱおかしいよな、ちくしょう!
「しょーねんのこと?そういやぁ、なんで覚えてたんだろうな?」
「本当は、記憶を失ってなんかいないんじゃないの?」
ズバッと確信に触れてくる名探偵。
追い込まれる俺(と俺の良心)。やめて、別に君にはばれてもいいけど高木刑事には言わないで!
あ、やっぱりナシ。記憶喪失設定を通さないと俺トリップしてきたって言うはめになるんだった。
「……さあ?でも、思い出せないことが多いのは本当だから」
仕方なしに両手を広げて笑いかける。
「俺、住んでたところも、親の顔もぜーんぶわかんねぇの」
「……………」
「覚えてることは確かにあるけど、肝心なことは忘れちまったらしくってさ」
信じるべきか、疑うべきか。
葛藤する小さな名探偵の顔を横目に見ながら、ペットボトルのお茶に手を伸ばす。
「しょーねん、悪いけどそこにあるコップ取ってくれるか?二つ」
「え?あ、うん……」
「お茶しかなくって悪いな。でも、飲んでいくだろ?」
「……………」
何故か怯えた表情が一瞬コナン君の顔を横切った。
なんでだ。
俺、何もしてないのに。そんなに喋ってたら喉乾くよなー、って思っただけなのに。
「そういや、君……もう遅い時間帯だけどお母さんとか――」
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