大凶ヒーロー、迷える子羊を諭す (3/3)



『樹理!?』

病室の外から慌てた足音が聞こえる。
ひゅぅ~、修羅場の予感~!これレイナさんに俺がフルボッコされるやつでは。
命の恩人に対してなんたる仕打ち。
ダメ押しとして、薬品はさっと俺のポケットの中にしまい込んでしまった。

「あ………」

ペットボトルの蓋を閉めていると、荒っぽい動きで病室のドアが開いた。

「樹理!!」

「今声がしたけどどうしたの!?」

「どうかされましたか!?」

待て。
女性が二人入ってきたのはいい。どっちがレイナさんかはわからないけど、このおねーさんのお友達のようだ。
だがテメーはダメだ安室透。
ノックもなしに女性の病室に入ってくるんじゃない。

「お姉さん、大丈夫!?」

君は許そう、小さな名探偵君。
え、マジだ。
マジモンのコナン君だ。本当に蝶ネクタイつけてる……!!

「あ、だ、大丈夫よ……す、すみません、大声を出してしまって」

「あんた誰よ!」

メガネで糸目のおねーさんその2に詰め寄られる。すかさず恰幅のいい、アクセサリーがゴージャスなおねーさんその3も俺に迫る。

「樹理になんかしたんじゃないでしょうね!」

やだ、神崎君ハーレム。
人生初のモテ期、年上のマダムにたくさんかわいがられちゃう!
なんて言ってる場合じゃねぇな。

「ち、ちがいます!私が、カップを落としてしまって……」

「そうゆうこと。それじゃ、お友達も来たみたいだし、俺は退散するよ」

小さい名探偵君が来た時点で、ちょっとした連載になるくらいのストーリーが始まりそうな予感がしたのでそそくさと退却の準備をする。
コナン君来たら人死んじゃうじゃん。
下手したら俺が第一犠牲者になるじゃん。加害者(冤罪)の可能性もあるけど。
どっちにせよろくでもねぇ。

「そんなに穏やかなやり取りをしていたようには見えませんが?」

病室の外に出ようとした俺の行く手をベビーフェイス君が阻んでくれる。
やめて。帰らせて。
あと俺をジロジロ見ないで。
安室君にとってはうん年ぶりの再会だけど、俺にとっては一週間とちょっとぶりくらいだから。はずいし、気まずいし、あの時のサイコ野郎って気付かれるのは嫌だから早くその手を放してプリーズ!

「ちょっとしたお話をしていただけだよ」

「あれれ、おかしいなー!」

こ の 名 言 は!!
コナン君!あざといコナン君!!
主人公の決め台詞がこんな簡単に聞けちゃっていいんですか!!!
ほんとにタダでいいんですか!神崎おにーさん、今お金持ってませんよ!?

「この床にこぼれてるのって、お兄さんのお茶だよね」

「んー?そうだね、ボーヤ」

「でも、お茶を飲んでたのはお兄さんだけなんだね?」

「部屋を間違えた俺をもてなしてくれたの。ね、おねーさん?」

「あ……は、はい!」

ジュリおねーさんは俺の肩を持ってくれるらしい。
よかったよかった。
これで、「え、不審者ですけど……」とか言われたら俺のハートに重大な傷痕が残ってしまう。経歴にも逮捕歴がついちゃうかもしれない。

「ペットボトルのお茶で?」

「『こ~い緑茶』で」

ちょっとだけ量が減ったペットボトルを見せてみせる。
そしたらなぜかちっちゃな名探偵の目つきが鋭くなった。やだ、何か察された?
これ以上ボロが出る前にやっぱりトンズラしよう。

「じゃあ、またね、おねーさん」

もう二度と会うことはないだろうけどな!
こっちを睨み付けてきている安室君の横を通り過ぎて病室の外に出る。
よっしゃ、出れた!!あのサイコキラー(濡れ衣)が俺だとばれずに出れた!!
あとは自分の病室に帰るだけ!!

「待って!!」

追いかけてきたのはバーボン君ではなく、ジュリおねーさんだった。
え、俺何か悪いことした?

「あの!ありがとうございました……」

「何の話?俺何もしてないよ」

「……それでも、ありがとうございました。それと、頬っぺた。ごめんなさい……」

「いいよ、いいよ。これくらい、どうってことないから」

嘘ですめっちゃ痛いです。
女の人の張り手しゅごい。ジンジンしちゃう。ジンニキにつけられたかすり傷が上書きされちゃう。

「おねーさん、ほんとにいい人だ」

「……私は、ひどい人ですよ」

「おねーさんがひどい人なら、世界中ひどい人だらけさ」

適当なことを言いつつ、手を振っておねーさんと別れる。
どれだけいたくとも、ほっぺには触らないとこがポイントだ。
ほっぺ、腫れるかなぁ。
名誉の負傷だから仕方ないな……。


………バーボンが追いかけてきてそうで振り向けない神崎君です。
公安怖い……。


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