大凶ヒーロー、迷える子羊を諭す (2/3)



「全部、伶菜のせいだった」

「お友達の名前?」

「高校の頃からああいう性格だから、仕方ないということはわかってた」

でも。
蚊の鳴くような力なさで呟くおねーさん。

「でも許せなかった」

「………………」

ドスの効いた声は反則だと思うんです。
怖ぇよ。
怖いよこのおねーさん。めっちゃ恨んでるよレイナさんのこと。

「いつも自分のことばっかりで、他人にどれだけ迷惑かけてるかもしらないで」

「うん……」

「平然とケラケラ笑っている姿を見るたび、どす黒い殺意が私の中から湧き出るんです……」

「…………」

「どうして、伶菜だけいつも幸運なんだろう、って」

「ギリギリで不運を避けちゃうわけだ」

「そのとばっちりはいつも周りにばっかり」

それはマジで憎たらしいな。
その幸運ちょっと分けて。俺にほんのちょっとだけでいいから。せめて末吉くらいは引けるくらいのLUCK値ほしい。
殺人決行三秒前のおねーさんと出くわすような大凶運じゃなくってさ。

「いつの間にか、殺したいくらいに憎んでた……」

「うん……許せない?」

「…………はい」

「じゃあ、殺したい?」

「……………………はい」

長い間があった。
その時間がそのままおねーさんの葛藤を現していた。

「でも殺すことに引け目は感じているわけだ」

「それは…………」

ようやく、おねーさんが俺の顔を見る。
大きく揺れる瞳はどんな感情を伝えようとしているのか、俺にはわからない。
ただ、なんとなく泣くのをこらえているのだろうな、と思えた。

「おねーさんと、おねーさんのお友達だけの問題じゃなくなっちゃうもんね」

「………………」

「こどもさんもいるし」

「あなたに……何がわかるんですか…………」

「わかんないけどさ」

どうしようかなーと思いつつもおねーさんからティーカップを取り上げる。
このまま人が死んだらマジで目覚めが悪くなるので、どうにかして思いとどまってはくれないだろうか。
せめて俺がいる間だけでも、と思い、ふとひらめく。
ずっと手に持っていたペットボトルを開けた。さっき病院の自販機で買った、なんの変哲もない緑茶だ。
それをえいや、っと取り上げたカップに注ぐ。

「おねーさんがいい人ってのはわかるよ」

「!?」

カップに注いだお茶をそのままぐいっと飲み干した。

「ダメ!!!」

大きく目を見開いたおねーさんが俺を突き飛ばす。
正確に言えばカップを取り上げようとしたんだろう。俺の顔をひっぱたく勢いでおねーさんの手が口元に迫った。
パリン、と派手に割れるティーカップ。全然飲めなかったペットボトル緑茶が病室のフロアにぶちまけられた。

「ほらね?」

塗ってるところ見てたんだから、そこに口をつけたりはしないって。
ケロっと両手を差し出してみたら、今度は本当にひっぱたかれた。

「い……」

「何を考えているんですか!!」

「強烈なことで……」


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