大凶ヒーロー、まっさらになる (1/1)



ここが噂の杯戸中央病院……!
わあ真っ白い壁!真っ白いシーツ!!点滴と包帯だらけの俺の腕!!!
大事件が立て続けに起きたせいで呪われてると密かに噂されているあの杯戸中央病院じゃないですか!!

「からだじゅういたい……」

「あ、君起きたんだね!」

「?」

目が覚めて現状把握につとめていると、小さなノックとともに一人のスーツ男が入ってきた。褐色の肌でノッポな、中々の好青年だ。
にじみ出るヘタレ臭がどこぞの高木刑事に似ている。むしろこれは本人では。

「あなたは……」

「はじめまして。警視捜査第一課の高木です」

まじで高木刑事だった。
初めて会えた無害な人!銃振り回したりとかしない人!!

「君は昨日の夜、提無津川の近くで倒れていたんだけど……」

「えーと…………」

倒れていたというか、轢かれましたがな。
とりあえず川辺から離れようとしたら普通に車にはねられました。しかもそのままひき逃げされました。
決死の脱出劇を繰り広げて早々、事件の被害者になるとはこれ如何に。

「まだ混乱してるかな。怪我の調子はどうだい?」

「あちこち痛いけど、死にそうなほどじゃないです……」

「よかった。先生が言うには、二週間くらいで退院できるそうだよ。怪我の割には回復が早いって、驚いてたみたい」

「あはは……」

そもそも事件に巻き込まれなきゃ怪我もしないんだけどな!
ちくせう!

「落ち着いているようなら、いくつか聞かせてほしいことがあるんだけど……いいかな?」

「あ、はい……」

これが取り調べというやつか。やべぇ、何も悪いことしてないのになんかドキドキしてきた。
……悪いこと、してないよな?
人のこと殴ったりとか、キーさしっぱのカローラ盗んで川底に沈めたりとか、してないよな?

「自分の名前はわかる?」

神崎。20歳です」

「職業は?」

「………………」

あれ、この場合どうなるんだ?
学生だけど、俺この世界だと学校行ってないぞ?

「答えづらかったかな。ええと、家族構成は?」

「………………」

「住んでいるところは?」

「………………」

「えー……ええと、あ!友達の名前とかはわかるかな?知り合いとかでもいいんだけど」

「………………………」

この世界での知り合いって言うとスコッチ君しかいない。だけど死んでるはずの人物の名前をここで出すわけにもいかない。
ライとバーボン?会ったが最後、殺しにきそうなやつらはノーカンだ、ノーカン。

「あー…………。あの、神崎君?」

「はい」

「何か、自分のことで覚えてることってあるかな?」

黙ってたら記憶喪失と思われたようだった。
記憶がないんじゃなくて記録がないんだけどな!今うまいこと言った?俺今ちょっとうまかった?

「……今日」

「うん」

「気が付いたら病院にいました」

都合がいいから乗っかっちゃうか。
記憶喪失の身元不詳って言ったら警察とかが保護してくれねぇかな。
治療費とか、入院費とか、働けるようになるまで誰か肩代わりしてくれたりとかしないかなー。
あれ、そういや俺免許証(異世界産)は持ってたはずだけどこの刑事サン見てないのかね。

「………………それだけ?」

「後は、名前と年齢なら」

「これは…………記憶喪失!?」

「………………」

ノーコメント。
神崎君は、少しだけ悪い子になってしまったようです……。
でも海に落ちたら別世界の川に居ましたとかちょっと言えません………。もうサイコと思われるのも電波と思われるのもこりごりです……。

「頭が痛いとかはないかい!?気持ち悪いとか!?」

「あ……そういうのは特に……」

なんだろう。
すごく今良心が痛んでる。
よお、久しぶりだな良心よ。てっきりもう俺のとこには戻ってこないと思ってたぜ。でも俺はもう新しいツレを見つけちまったんだ。お前に従うことはもうできないよ。

「そっか……わかった。とりあえず電話を一本かけてくるよ。記憶が戻るまでは警察……は管轄外だから手が出せないけど、君のことをちゃんと保護する仕組みもあるから。安心してね」

「あ、ありがとうございます……」

「いちおう、もう一度事故現場から君の身元を確認できるものがないかも探してみるよ」

俺の免許証どこ行った、ねぇ。
え、流された?川にどんぶらこされたった?

「色々とスミマセン……」

「大丈夫、これが仕事だから!」

爽やかに高木刑事が記憶喪失(嘘)の俺を励ましてくれる。
じくじくいたむ。
こころが、こころがいたむ…………!!
こんなにあっさり保護されちゃっていいのだろうか。神崎君、殺人犯(冤罪)よ!?黒の組織と(一方的に)ドンパチされてきた悪い子よ!?
保護されるような理由なんて……あるわ。めっちゃあるわ。
なんなら証人なんちゃらプログラムみたいなので別人のID欲しいくらいだわ。
どうせ知り合いなんてこの世界にいないし。家族もいないから正真正銘の独り身よ!

「まだ傷は治り切ってないから、安静にしてるんだよ」

「はい……」

「心配とかもしなくていいからね!」

「は、はい……」

「記憶もきっとすぐ戻るから!今はショックで少し混乱しているだけだからね!」

「………………」

あの、その辺で。
もう結構です。お腹いっぱいです。
俺の幼気なハートはもう取返しのつかないほどの重症を負ってます。そろそろ勘弁してください。

「昨日の夜、何があったかとかもまた一応聞きに来るけど、無理に思い出さなくても大丈夫だからね」

「はぁ……」

「これ、僕の電話番号だから。困ったこととか、思い出したことがあったら連絡すること!」

「ありがとう……ございます……」

もうやめて!!!神崎君のハートのHPはゼロよ!!!


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