大凶ヒーロー、【自主規制】になる (3/3)



「さあね。ま、お誘いにのってみればわかるんじゃないの?」

「っ……!」

「降りるのか?」

降りれるのか、という意味も含めて問いかける。
サングラスの奥は見通せないけれど、さっきからスコッチの様子が随分と忙しない。どうにも車内を見回しながら、こっそりとドアに手をかけている気配がする。
ここで引き渡す本人がいなくなったらややこしいことになるから非常にやめていただきたい。
ライに任せさえすれば、後は何とかしてくれるはず。お前をここから逃がすなんてお茶の子さいさいだ、みたいなことを原作でも言ってたし、なんとかなるってきっと。ヒーロー補正とかそういうので。
後は、俺はストレートだからバーボン君の面倒は見れないよ、と丁重にお断りしてトンズラこけばいいだけだ。
できればスコッチ君と一緒に俺も保護して!

「…………俺を、脅すつもりか」

「そうじゃなくって。単純にここで逃げ出せるのか、って話」

「バーボンには手を出すな」

「ネズミサンが大人しくついてきてくれるなら、手を出す理由はないよ」

手を出す気など本当はこれっぽちもないんだけど。
イケメンは爆ぜろとは思えどもベッドインしたいとは思わないよ。俺、ストレート!恋愛対象は女の子!

「――俺を人質にとって、バーボンに何をさせるつもりだ」

「………………」

何も、と言いかけてやっぱりやめる。
ここで無実を訴えても逆効果な気しかしない。
今のスコッチ君は木に登ったはいいけど降りられなくなって、通りかかる人間すべてを威嚇しまわる猫みたいな顔をしている。
つまり猜疑心MAXだ。
神崎君はほんねをしゃべった!だめだ!こうかがない……となる予感がビンビンきてる。
神崎君は悪者になるしかないらしい。

「降りてもいいぜ?二度と、ネズミのお仲間さんに会えなくてもいいっていうならだけど」

「!!…………お前は……!」

掴みかかってくるスコッチ。
やめて、神崎君いま運転中よ。
脅した俺が悪いのはわかるけど事故ったらどうすんだ、シートベルトもつけてないのに。

「おにーさんが車に乗り込むまで、ほんのすこーしの時間だったけど。どれくらいのデータが転送できたと思う?」

「……………!」

さっきまで強奪していたスマホを暗に示してやると、さっと顔を青ざめさせる公安のスパイ。
ごめん、ぜんぶ嘘。俺にお仲間さんとかいないんだ。さっき電話してきたスナイパーともかなり殺伐した会話を繰り広げてたんだ。
じくじくと一般人としての良識が痛む。

「試しに俺のこと、殺してみる?」

ちなみに答えはいいえかノーな。
それ以外はマジで認めない。

「ちぃ………!」

「まあ、俺のお願いを叶えてくれたらどっちも五体満足で帰すからさ。ちょっとだけ大人しくしててよ」

「……どうだか」

「なんなら直筆サインでも書いてくれれば、俺が二人のお願い事聞いちゃうよ?」

「…………………」

マジじゃねぇよな?みたいな顔をされてしまった。
そこは「……どうだか」って疑ってくれよ。やっぱりこいつサイコ寄りのホモストーカー?みたいな顔やめてくれよ。
空気を和ませるためのただのお茶目なジョークだったのに。あ、でも直筆サインのためならパシリくらいまでならやれる……!

「好きな子をいじめるタイプじゃないからさ、安心してほしいんだけどな」

「………………」

スコッチはもう答えなかった。
苦々しい顔で俺から目を逸らし、腕を組む。大人しくしてくれるようで何よりである。
念のため、マニア涎もののジンニキの血液付き灰皿から意識はそらさずにしておく。
なんで持っているかって?うかつに捨てられなかったからだよ!
うっかり無辜な一般人にも拾われてしまったら、悲劇がおきてしまうじゃないか。黒の組織かFBIに不運な一般人が迫られる未来しかない。
どうしてか考えただけで涙があふれ出ちゃうような悲しい未来である。

「そういや、おにーさんを追ってたライって人、どんな人なの?」

「……………」

「意味深なこと言ってたけど、ネズミのお仲間だったりしないよね」

「……………」

「スコッチサンのこと、追ってきてるってさ」

「……………」

「クールでかっこいいよなー。好きになっちゃいそう」

「……………」

完 全 拒 否 !
ホモネタにすら反応してくれない。完全に嫌われてしまったらしい。
……いいけどさ。スコッチ君の命が助かるなら、神崎君が嫌われるくらい全然いいけどさ……。
倉庫街につくまで沈黙のランデヴーだぜ!
しっかし、未来のシルバーブレットが容赦なく公安のスパイその2をサイコ殺人犯(冤罪)に売り渡すとは……って、あれ。
ふと恐ろしい考えが頭の中を駆け抜ける。
待って、これって居場所の掴めないやつをおびき出すパターンじゃ。取引できると思った?残念、おびきよせるための嘘でした!みたいな。
「俺は仲間を売らない主義でね」とニヒルな笑みを浮かべたスナイパーをうっかり想像してしまった。
なんでかな、さっきまでは感じなかった震えが。武者震いとか言うやつだろうか。
原作著名人と会うのが楽しみすぎて心臓バクバクしてるぜ、ひゃふぅ!!


…………問答無用で射殺されたりとかしないよね?


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