大凶ヒーロー、【自主規制】になる (2/3)



『……なるほど、無事のようだな』

「聞いての通りだよ」

『あまり時間がないので率直に聞こう。君の目的はなんだ?』

「今欲しいのは身元不明の死体かな」

『……ホー』

ライの声のトーンが下がる。
あ、これ勘違いされてるやつ。スコッチ君が身元不明の死体の素材にされると思ってるやつ。

「アンタもそう思ったから連絡してきたんだろ。……なあ、協力しない?」

『君の目的と、条件によるな』

かっけぇな、スナイパー。
いい感じにダーティーで痺れるわ。金次第でどんなハードなミッションもこなすんですね。
黒の組織に居てもまったく違和感ないな、この人。

「逃がしたいんだろ。このスマホの持ち主を」

『………………』

ライは答えなかった。
でもその無言が何よりの答えとも言える。

「生きてる限りは追われるからなぁ。いっぺん死んでもらう必要があるんじゃないの」

「おい……あいつは巻き込むな」

「ああ、大丈夫大丈夫。アンタの大好きなバーボンは巻き込まないから」

スマホを取り返そうと伸びてきた腕を躱して、適当にいなす。スコッチにはまだバーボンと会話していると思われているらしい。
よーく耳をすませばあのベビーフェイスには渋すぎる声だって気付けるはずなんだが。

『何故、俺がそいつを逃がすと?』

「んー……」

あなたのファンだからです!
と言ったらもう完全にただのサイコストーカーなのでちょっと言い訳を考える。
あなたの真心を信じています、でも別方向にサイコだし……そうだ。

「『思っていたよりもこの状況はシンプル』……だろ?」

ライの台詞をそのまま引用して告げる。
あの時、どうにもこのスナイパーは潜入捜査官だらけの状況に気付いていた節がある。
まあバーボンのあの動揺っぷりを見てスコッチの仲間だと思わない方が難しいか。

『……バーボンから情報を聞き出した後は、スコッチに用はないと?』

「俺、できれば安穏と生きていたい派よ?」

殺人とか殺傷とか、ほんといつもの神崎君ならしないから。殺人に至ってはやってすらいないけど!
ついでにバーボンから聞き出したいことすらない。何を聞けってんだ。スリーサイズ?なんなの?みんな大好きエキゾチックベビーフェイスのスリーサイズを公開すりゃいいの?

「あの時、闖入者がやって来るとは思ってなかったし」

あれさえなけりゃ今頃俺はミッションコンプリートしていたはずである。
なのにどうして今、原作では死んでるはずの男とデッドラインランデブーをしているんだろうか。
赤井スナイパーがやろうとしてたスコッチ君生存作戦の指揮権がまさかちょっと大凶なだけの一般人に転がってくるとは。責任の重さに割と神崎君つぶれちゃいそうよ。

「悪かったとは思ってるよ。アンタを目立たせちゃってさ」

『君としても、あの場に俺とスコッチが現れたことは不都合だったわけか』

「シンプルだったお話が随分こじれちまったからなぁ」

『……わかった。君が察している通り、バーボンの身柄は俺が個人的に確保している』

待って、察してない。
バーボン君がライに捕まってるとか聞いてない。

『死体は君とバーボンの分も用意しよう』

「随分と至れり尽くせりだな」

『それを叶えられるだけのバックが俺には居ると言うことだ』

FBIですね。
国境を越えて凶悪犯罪を調査するビッグな組織なら三人分の死を偽造するくらいちょちょいのちょいですね。

『その代わり、スコッチは五体満足で引き渡してもらう』

「いいよ。俺は別にいらないし」

『こちらはバーボンと死体を用意する』

いらない。
バーボンはいらない。

『殺害現場はそちらが決めてくれ』

「物騒な言い方だなぁ。どこでもいいよ」

場所が指定できるならこうしてグルグル市内を適当に走り回っていたりなどしない。
スコッチも行きたい場所はないって言うし。
秘密の集合場所とか教えてくれれば公安に押し付けに行くのに。
ちらっと助手席の逃走仲間を見れば、緊張した面持ちが視界に飛び込む。スマホから漏れでる声を拾おうとしているらしいけれど、エンジン音にかき消されてよく聞こえないらしい。
あからさまな不安を浮かべてスマホを見ていた。
目が合うと凶悪なサングラス面で睨まれる。
俺何も悪いことやってないのに。

『こだわりがないのならばこちらから提案したい場所がある』

告げられた住所は町の郊外にある、倉庫街のようだった。
わかりやすいほどに犯罪におあつらえ向きである。きっとプレハブ製でボヤの原因になりやすい古びた配線とかがたくさんあるんだぜ。夜はひと気がなくって多少の悲鳴なら誰にも聞こえないとか。

「いい殺害現場じゃないの」

俺の台詞にスコッチの肩がびくりと揺れた。車内だが、窓の外だかをさっと確認して唾をのむ。
あれ、なんか勘違いされた気がする。

「三十分後くらいには着くと思う。俺が来るまで、精々スプラッタにしといてくれよ」

『了承した』

その一言とともにすぐさま通話が切れる。スナイパーが冷たい。
他人のスマホなんてもう持っていても仕方がないので持ち主に投げ返してやった。

「……バーボンは巻き込まないとその口で言ったはずだ」

「だから、巻き込むつもりはないって」

俺が何もしなくともがっつり渦中にいるみたいだけどな!
なんで赤井さんが安室さんを捕獲してるのさ!原作だと捕獲されそうになってたのは赤井さんだっただろ!

「ならなぜお前の仲間がバーボンのスマホから連絡をよこしてくる!」

さすがにバーボンと話していたとはもう思われないか。
スマホを握りしめて俺を強くねめつけるスコッチ。そんなに見つめられるとドキドキしちゃう。
恐怖とか威圧感的な意味で。
俺に聞かれてもわからんって言うのに。
さっきまで落ち着いていた猜疑心をまたむくむくと育てられても困るんだけど。


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