大凶ヒーロー、【自主規制】になる (1/3)
沈黙が気まずい神崎君です。
窓の外の景色を見ているスコッチサンの横顔マジダンディー。サングラスつけるとまるで悪人ですね。
車を一台乗り捨てて、適当な路駐車に乗り換えてからずっとツレナイ距離だ。
コンビニ脇にカローラを止めてた誰かさん、ちょっとの時間だからってキーさしっぱで車を置いて行っちゃダメだぞ!こうやって心無い神崎君に奪われちゃうからな!
……はあ、罪が重なっていく。このままでは心身ともに犯罪者思考に染まってしまいそうだ。
「なぁ、ネズミちゃん」
「……その呼び方はやめてくれ」
「死にたてほやほやの死体に心当たりはありまセン?」
「はぁ?」
勇気を出して年上のおにーさんをちゃん付けで呼んでみたけど、不評でした。やだ、スコッチ君刺々しい。せっかく空気を和ませようと思ったのに。
ネズミのにーちゃん、とかもっと優しく呼んであげるべきだっただろうか。
「心当たりないかー。身元不明の死体ならなんでもいいんだけど」
「顔でも焼くつもりか?」
「指紋もね」
さすが原作キャラ。頭の回転が速い。
俺の『緋色作戦』をすぐに察してくれた。
そこ、コナン君のパクリとか言わない。一般人が完全犯罪なんかすぐ思いつけるわけないでしょ!
「まあ、場合によっちゃもうちょっと加工するけど」
『緋色作戦』を決行するにしても、どこぞのニット帽スナイパーのように、ポケットに指紋入れっぱなし作戦はうまく行かないだろう。
だってスコッチにニヒルっぽい癖とかないし。ポッケに手を突っ込んだまま銃ぶっぱなしたりとかしないし。都合よく指紋だけ残ってたら逆に偽造を疑われそうだ。
だから状況証拠だけで死体がスコッチ君だと信じてもらわねばいけないわけだが。死体現場をスプラッタなものにでもすればいいんだろうか。サイコ快楽殺人犯が【自主規制】して【自主規制】して【自主規制】、みたいな。
嫌だなぁ、そもそも死体とか見たくないなぁ。この大凶体質のせいで何回かぶちあたったことはあるけどできれば関わらずに過ごしたいなぁ。
「……本当に俺を逃がすつもりか?」
「意外としつこいなぁ。なに、見返りでも要求してほしい?」
「…………何がほしい」
スコッチの声が急に固くなる。
サイコ野郎と思われているから警戒しているのか、ホモ野郎と思われているから緊張しているのか。
この区別大事よ!俺ホモじゃないからね!?スコッチたんhshsprprとか言ってたけどホモじゃないからね!?濡れ衣なの信じて!!
「じゃあ……」
サイン、と言いかけて止める。
スコッチの直筆サインとかすごく欲しいけど、この流れでそれを言ったらサイコホモ決定になってしまう気がする。
「じゃあ次に俺がここに来たときは手伝ってもらおうかな」
「殺人の片棒を担ぐ気はない」
「そうじゃなくって……あー、まあいいや。そもそも戻れるかもわからないし」
「は?」
「こっちの話。ま、機会があればそこらへんも追々な」
単純に公安に身柄を保証してもらいたかっただけですが何か?
とりあえず、次困ったらスコッチおにーさんを頼ろう。よし、このイザコザが終わった後もボランティアに戻れなかったら居候させてもらうとしよう。
命の恩人(推定殺人犯)だし許されるよね!
……なんでだろ、逮捕される気しかしない。
「あ、スマホ鳴ってるぜ」
ふと車内にバイブ音が響いた。
「――バーボン?」
ちらりと見れば、スコッチがスマホ画面を握って硬直していた。
お仲間さんからのコールに出るかどうか指を迷わせているダメ男からスマホを再び奪う。
「あっ」
通話、っと。
『――連絡は繋がるようだな』
「あ、おにーさん死体とか持ってない?」
『君か』
間髪入れず問いかけた俺に、ちっとも動揺してくれないおにーさん。
バーボンお兄さんかと思った?残念、シュウお兄ちゃんでした!!
おっと、ここは心の中でもライと呼んでおくべきだな。うっかり赤井さんなんて呼んでしまった日にはややこしいことになるに違いない。
コンタクトを取ってくるかもとは思っていたけど、なんでバーボンのスマホから連絡かけてきてんだか。
『スコッチはまだ生きているか?』
「まあ今のところ死ぬ予定はないかな」
「いて……っ!おい、俺のスマホを返――いっ!」
中々いい腹筋してますね、スコッチサン。つねりがいがあるわぁ。
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