大凶ヒーロー、ネズミと戯れる (2/2)



こんこん。

「ん?はーい」

コツコツと外から叩かれたので窓を開ける。
なんだよお巡りさん。俺たち今、逃走中だから後にしてくんない?

「すいませーん。今検問中でして……免許証だけさっと見せてもらっていいですか?」

「あ、はーい」

検問っておま。
これもいつもの大凶の一つだろうか?
一瞬公安かな、って思ったらスコッチの顔に明らかに「やべぇ」と書いてあった。本当に顔に出るねこの人。お巡りさんにはスコッチ君見えてないからセーフセーフ。
ポケットから免許証を取り出す。財布だけは持ってきてて助かった。

「これでいいですか?」

「はい、神崎……えっと」

「あ、おりです」

神崎さん、と。控えだけとらせてくださいね」

「はいはーい」

「お仕事帰りですか?」

「いーや、これから向かうところです」

「こんな時間から!」

「俺みたいなのは基本夜型ですから」

「大変なんですねぇ。あ、免許証ありがとうございました」

「いえいえ」

ちょこっと世間話して。
さらさらっと控えを取られて即開放。
そりゃそうだ、犯罪者じゃないもん。ないったらない。俺は殺ってないんだって!

神崎……」

「なーんだよ、急に俺の名前なんか呼んで」

ちょっとときめいた。
芸能人に自分の名前を呼ばれるってこんな感覚だろうか。

「それ、本物か……?」

唖然としてるスコッチの目は免許証にロックオンされてる。

「あ、これ?本物の定義にもよるかな」

「……やけにあっさり出すと思ったらやはり偽造か」

「うーん……一応本名ではあるんだけど」

ちゃんと教習所行って試験受けてきたさ。同じ教習所がこの世界にあるのかどうかは知らないけど。あ、俺戸籍もないじゃん。保険受けられない代わりに身元もばれないぜひゃっほー!
黒の組織に狙われても住所録から居場所が割れることはないな。数少ないお友達が物理的にゼロになることもないしいいことずくめだ。うん、異世界トリップって素晴らしいな!!
…………はぁ。
怪我しないよう気をつけよ……。

「まあ、とりあえず。この車はテキトーなところで乗り捨てようか。あ、サングラスあった。使う?」

「……もらおう」

スマホを返したことが功をなしたのか、スコッチの敵愾心がかなり減っている。
あるいはただのサイコ寄りのストレートじゃない人と思われているか。しかも俺好きな人のために他人殺してるって思われてるじゃん。ヤンデレか。
サングラスを受け取るスコッチ君の指先がやや震えていた。敵愾心は減ったが警戒心は増している気がする。
どうすりゃいいんだよ。
あいあむ一般人!のーもあ冤罪!おーけー?


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