大凶ヒーロー、誘拐犯になる (2/2)
「何のつもりだと思う?」
一応聞いてみる。
客観的事実を確かめるのもたまには重要だ。
へこむことの方が多いからたまにで十分だけど。
「………お前がカーディナルを殺し、データを奪い、あえて姿をカメラに残したのはバーボンをおびき出すためだ。殺人事件と来れば探偵で、組織の探偵と言えばあいつくらいしかいない。ジンを巻き込めば奴が直接来る可能性もあったが、それはジンの財布だけには手をつけないことで防いだ。ウォッカとカーディナルの財布からは相当な額を抜いたのにな。お前の目論見通り、ジンはわずかな疑惑が後の遺恨になることを嫌って、お前と直接接触せずに追うことを決めた。バーボンを使う必要が出た、というわけだ。ここまでは合ってるか?」
「………………」
なに俺怖い。
とりあえず肩をすくめてみたものの、そんな緻密な策略を立てた覚えなんて一切ない。俺、頭良すぎじゃね?
むしろそのシナリオを作り上げたスコッチが頭良すぎじゃね?さすがバーボンの同僚。こいつの頭の構造どうなってるの。
「そしてまんまとバーボンをおびき出したお前は、あいつの銃を奪って交渉を迫った。迫るつもりだった、と言うべきか。交渉に入る前に俺が邪魔したようだな。そして俺を盾に取ればバーボンが逆らえないと考えて人質にした。しかしライが俺を追ってきたせいで碌な交渉はできなかった。……ってところか」
見事な推理だが、一つだけ大きな見落としがある。
カーディナんとかさんを殺ったのは俺じゃねぇ。前提がそもそもの大間違いだ。
言いたい、この真実。でも信じてもらえる気がまるでしない。
「おにーさんたちが来たのは本当に予想外だったよ」
「だろうな。俺も驚いたよ」
いや、ほんとにね。
あのままバーボンを足止めするだけだったなら話は簡単だったんだよ。
ここでスコッチ君とランデヴーする必要もなかったんだよ。スナイプされかけることもな!
「それで?俺をダシにしてあいつから何を聞き出したいんだ?」
「大人しく乗り込んできたのは殺されない、って踏んだからか?スコッチサン?」
バーボンからわざわざ聞き出したいトップシークレットなんざないので、とりあえず質問を質問で返してみる。
「俺を殺す機会はいくらでもあっただろう。バーボンが暴れ出した時とかな」
窓の外を見ているようで車内を見回しているスコッチ。
何かを探しているような目の動きだが何を探しているんだか。そうか、スマホか拳銃のどっちかか。そりゃそうだよな。
かく言う俺もジンニキの血がついたウルトラレア灰皿から意識を離してないけど。適度な緊張感が車内を張りつめさせている。
スコッチと俺。
どちらも主導権を握ろうとして互いの腹を探り合っている状態だ。
……って、俺は主導権握る必要なくね?このままスコッチさんをおうちに送りつければよくね?
ついでに俺も保護してポリース!殺人は冤罪なの、信じて!
「殺すつもりはない、って言ったら信じてくれる?」
「あいつが情報を吐くまでは、だろ」
「その後もさ。最初から誰も殺すつもりはなかった、って」
「…………」
スコッチは動きを止めて俺を見た。
うっかり人間と鉢合わせた猫のような、心情が読みとれない目だ。こう、ちょっとギョッとしてるような。警戒しているような。いやん、見ないで。
「お前は何者なんだ」
地を這うような声の低さに少し背筋がぞわっとした。
「おお、怖っ」
やだ黒の組織怖い。スパイでも凄みだすと普通に怖い。
いや、これは公安がガラ悪いのか?安室君も悪人面すると怖かったな、そういえば。
「茶化すな。あまりにも詳しすぎるんだ、お前は。……バーボンや俺について、どこまで知っている」
過去から未来まで知っています!
とか言ったら最高にサイコ野郎なので言わない。サイコというより電波だ。そして過去はそこまで知ってるわけでもなかったな、うん。今が過去編だし。
「俺原作しか追ってなかったからなぁ」
「は?」
「いやこっちの話」
「だから茶化すなと言っている」
苛立ったようなスコッチ君。
茶化しているわけじゃないんだ。ただこれ以上のサイコ野郎にならないためにはどうしたらいいか真剣に考えているだけなんだ。
お前の死を知っている……なんて言い出したら完全やばい人じゃねぇか。殺人犯(冤罪)な時点でやばい人(濡れ衣)なわけだが。
………世知辛い世の中だぜ。
「……聞き方を変えるぞ。お前は俺を、どうするつもりだ」
「…………ああ」
本当に聞きたかったのはそれか。
ドスの効かせた声の中に、ほんのちょっとの緊張がまざっていた。
もしかしたらスコッチは賭けたのかもしれない。
大した根拠も理由もなく、ただ組織の奴らに捕まるよりはマシだとばかりに俺の車に飛び込んだのかもしれない。
だから今も俺にいいようにされないように気を張りながら、必死に俺の思惑を探っている。
「逃がすよ」
なら俺も本心を返さなければ。
「あんたを死なせるなんてもったいないこと、できるはずがない」
スコッチを安全に逃すにはこちらの思惑を信じてもらうしかない。
このまま腹の探り合いをしているうちに相打ちになりそうだ。
なら俺が今ここですべきなのは――
「ね、公安のネズミさん」
素直に持っている情報を開示して協力を仰ぐことだ。
………できるだけサイコに思われずにな!!!
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