大凶ヒーロー、追い詰められる (3/3)
やはりスコッチからのラスト・メッセージだったらしい。
焦りと怒りの混じった表情でバーボン君は俺に訴える。
いやー、早くスコッチに会いたくて仕方ないんだろうなぁ。よくわかんないサイコ野郎に構ってる暇なんてないよなぁ。うんうん、わかるわかる。
これが愛って奴だな!
だが行かせてやらない!!
「俺を追いかけてきたのはおにーさんの方だろ?今さらナシって言われても、なぁ」
「事情が変わった!!お前はどこへなりとでも行けばいいい!」
「あら暴言」
組織の命令で俺を追いかけていたのではないのだろうか、一応。
任務放棄なんかしたら銀髪のこわいにーちゃんにバラバラ死体にされちゃうぞ。あいつは脳天ぶち抜く方が好きだった気がするが。
「どうでもいいから行かせてくれ!!!」
バーボンの声に涙の気配が混じった。
甘い顔立ちに切なげな影がかかって、まるでドラマのワンシーンのようだった。
イケメンは何をしても様になるな、ちくしょう。
「行かせないよ」
「…………っ。」
勘違いしないでくれ、これは別に意地悪なんかじゃない。
原作ファンとしてはどうしても行かせるわけにはいかないだけだ。
居るか居ないかもわからない俺の心を覗きみている皆々様、覚えておいでだろうか。公安の潜入捜査官スコッチの死因を。あともう一歩のところで助かるはずだったスコッチを地獄の底に叩き落としたのはいったいなんだったかを。
「新しい任務かなんだか知らないが、殺るなら俺が先だろ?」
「俺はアイツを殺しにいくわけじゃない!!」
屋上まで一直線に駆けあがる足音。急速に近づいてくる組織の気配にスコッチは逃げ切れないことを悟った。
バーボンは優秀すぎた。到着がもう一歩遅ければ。あともう少し遅ければスコッチは自分の胸をぶち抜く必要はなかった。
テメェを心配してやまない男の足音に殺されることはなかったのだ。
「殺すよ、おにーさんはきっと」
だからここでできる限り時間を稼ぐ。バーボンをスコッチのもとに行かせなければ後は奴がなんとかしてくれるはずだ。
原作ではスコッチを寸でのところで助け損ねたスナイパーを信じよう。
目の前の名探偵には恨まれるかもしれないが、まあ仕方ない。
どうせもう殺人犯(推定冤罪)だしな!!
ガチャリ。
「………………」
「………………」
あれ、この展開デジャヴ。
待って、このパターンは想定していなかった。
息を切らせて部屋に飛び込んできた無精髭がダンディーな男が相当驚いた顔をしてこちらを見ている。こっちもたぶん似たような顔だろう。
俺の足元で転がっているバーボンも言葉を無くしていた。信じられない様子でドアの方へと体を伸ばしているが、痛くないのだろうか。かなり力を入れて踏みにじられているはずだが。
「…………スコッチ!!」
なんで来ちゃったかな、スコッチ君。
ちくしょう、また大凶だ。
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