大凶ヒーロー、追い詰められる (1/3)



どうにもこの世界は俺にやさしくない。
いや、前の世界もやさしいわけじゃなかったな。
突きつけられた銃口をガン見しながらどこかにいるかもしれない神様に不平を漏らす。

「あなたが、カーディナルを殺した犯人ですね?」

そこは人差し指だろ、なんで銃口なんですか黒ずくめのおにーさんその2。あと犯人違います、たぶん。
どうも、殺った覚えのない事件のせいで逃走中の神崎君です。気付いたらこんにちはしていた死体君は表沙汰にできない方だったらしく、サツには幸いと追われていません。
でも警察に追われるより黒ずくめに追われる方がやばいんじゃ。社会的な危機どころか命の危機である。恨みなんて買うもんじゃないネ。

「殺したとか物騒だなぁ。おにーさんヤのつく自由業?」

「惚ける必要はありませんよ。ジンとウォッカ以外にあのホテルから出てきたのはあなただけだ」

「じゃあ容疑者は俺含めて三人ってことだ」

「あはは、本気でいってます?」

おにーさんの目は笑っていない。ちょっとしたお茶目な冗句だったってのに。

「だって俺、殺ってないぜ?」

「ご冗談を。あなた以外の誰がカーディナルを殺せたと?」

それはあんたが考えることだぜ名探偵。
俺は無実だ。たぶん。
仕事してくれ名探偵。

「ですがわからないことがあります」

「おにーさんみたいな名探偵でも解けない謎があるんだなぁ」

「…………僕のこともご存知でしたか」

「紙媒体で読んだだけさ。アニメは見てない。あ、おにーさんはどっち派?」

「何の話ですか」

まあ知っていると言えば知ってますよ喫茶店ポアロの名探偵さん。本当にベビーフェイスなんですね。
ってか時間軸いつだよ。今原作前なの、原作中なの。
組織があるってことは原作後ではないな。

「聞きたいのはあなたの正体と、隠し通路のことです」

「ん?」

なんか変な言葉が聞こえた。
隠し通路?

「あの部屋には組織員のみが知る脱出経路がありました。あなたはそこから室内に侵入し、鉢合わせたカーディナルを殺害。駆け付けたジンとウォッカを昏倒させ、USBデータを入手した」

「へー。あの兄ちゃんたち生きてたのね」

うっかり撲殺してしまっていたら(色々な意味で)どうしようと思っていたが、生きていたらしい。
いやはやよかった。組織の実質No.3とその相方がうっかり撲殺されるとか笑えねぇよ。原作どうすんだ。
そしてデータって何。ジンニキも同じこと言ってたけどUSBデータっていったい何。

「ええ、気になるのはそこからです。あなたはジンとウォッカを殺さなかった。そしてわざわざエレベーターを使い、監視カメラの前に姿を見せてから現場を後にしている」

知らなかったからな、隠し通路なんて。知ってたら普通に使ったわ。
真犯人はたぶんそこから出入りしたから見つからなかったんだろうな。そして犯人が俺確定だから調査もされてないんだろうな。世知辛い世の中だぜ。

「あなたの行動はどうにもちぐはぐだ…………データを奪っていった割にはそのデータを利用した形跡がない」

持ってないからな、そのデータ。
何のデータかも知らないからな。

「カーディナルは殺害したが、ジンとウォッカの殺害に対しては消極的。カーディナルに個人的な私怨があったという線もありますが――」

「俺と奴に面識はなかった、と」

「――ええ。カーディナルの周囲にあなたと特徴の一致する人物はいませんでした」

はじめの質問に戻りましょう、と。
勿体振った口調で金茶の髪の名探偵は言った。

「あなたは何者ですか?」

「それは自力で解いてみな、名探偵」

俺も合わせて勿体ぶってみたが、実際はただの一般人である。
どうにも世界線をいくつか越えてしまった疑惑はあるが、それでも一般人だ。生まれ育った世界ではクソ文系を謳歌していた。知ってるか、最近の大学はボランティアで単位が出るんだぜ?
死ぬほどハッピーアンラッキーってことくらいしか特徴がない。
おみくじで大凶しか引いたことがないってやばいよね。運がいいんだか悪いんだか、年に何回引こうと必ず大凶だ。俺は大凶に愛されすぎている。たまには吉さんも来てよ!末っ子吉さんでもいいからさ!

「なるほど、明かす気はないということですね」

「明かすも何も見たまんまだよ」

「注目とスリルのために組織に喧嘩を売ったサイコ野郎ですか?」

「……………………」

あ、そう見えてるのね。そうきたかちくしょう!
そうだよな、俺も客観的に見たらサイコだなとか思ってたよ!でも冤罪吹っ掛けられて、弾丸ぶちこまれてハイさよならと言えるほどできた人間でもねぇよ!
くそくらえだ、金は貰ってくぜ。精々困りやがれ。
お財布の中身のことがなくたってジンニキさんが派手に殺しに来るんでしょう!?映画版みたいに。映画版みたいに!!

「思いの外簡単に居場所が割り出せたので驚きましたよ。気の回らない殺人鬼なのか、それともこれも罠なのか……」

一般人に何を求めてるんだこの安室君は。

「なんのためにあなたは――」

着信音が鳴った。
シンプルな着信音。アニメのキャラソンでも流れたら指差して笑ってやるのに。
失礼、とわざわざ断りながら安室がスマホを取り出してメールを確認している。

「奴らにばれた…………?」


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