大凶は硝煙の香り (3/3)



「痛ぇな」

自分でやっておきながらなんだが、あれは痛い。
おにーさんの額にこぶし大の灰皿がめり込んでいる。クリスタル製の投擲武器に少し血がついているのが見えた。
殺ったか……いや、殺してないよな?
運良く大ダメージを喰らってくれたおにーさんはその場に崩れ落ちた。死んでないよね?え、マジで殺っちゃってないよね!?
動揺はしたが迷っている暇はない。

「え……あ、アニキ何やって…………」

おにーさんと違って、サングラス野郎の方はウスノロ気味だ。
現状把握が遅すぎる。
床から体を跳ね起こし、扉の前まで駆け寄って、腕を振りかぶる。
おいグラサン野郎、知ってるか。一般人は銃の使い方なんて知らない。
引き金を引けばいいことはわかるがそれで本当に弾が出るかもしらないのだ。っていうか、俺が拳銃なんて使ったら暴発する自信しかねぇわ。
なのでシンプルに鈍器として使う他ない。銃身のさきっちょをキュッと握って、遠心力を使って振りかぶる。
蛮族上等。原始人最高。ウホホッ。
ゴスッ、といい音が鳴った。

「ミッションクリアー、ってか?」

大きな音を立ててグラサン野郎も崩れ落ちる。
敵はいなくなったが、これで俺も立派な犯罪者である。傷害罪って懲役どれくらいだったかな。いや、その前に殺人罪(推定)なワケだが。
もう面倒事決定なので、開き直って部屋から金目のものを頂戴していく。金がないのだ。逃走資金が。善良な市民の犠牲となってくれたまえ。
物騒な銀髪のニイちゃんはなんとなくそのままにしておいた。なんか怖かったので。
死体君とグラサンのウオツカ君から財布の中身を頂戴して部屋を出る。
ドアを開けたら、リビングのようなところに出た。壁際にコーヒーメーカーと小さな冷蔵庫がある。ホテルっぽい。部屋の広さからしてスイートか。
さらにドアを一枚開けると、ようやく廊下に出てくれた。
あまり流行っていないところらしく、人の気配はない。
さっき思いっきり銃声とかしてたけど大丈夫だろうか。誰も騒いでいないということは大丈夫か。流石スイート、防音機能付きかな。
とりあえず外に逃げよう。
ここに長居したら黒くて怖いおにーさんたちにバラバラにされてしまう。せめて幼児化で済ませてくれればな。

「……ん?」

エレベーターで一階に下りながら、ふと気づく。
銃器なんかに一度も触ったことのない俺が、人の心臓を綺麗に撃ち抜くなんてことできるのだろうか。
自慢じゃないが、夏祭りの射的は一度も当てたことがない。当てるつもりはないのに店主の禿げ頭にはよくぶちまけていた。よく出禁にならなかったと思う。

「…………ノーコン野郎が他人のハートを狙い撃ち?」

無理じゃね?
状況はよくわからないが、どうにも俺はまたババを引いたらしい。
ああそうだ、『また』だ。
殺人犯に間違われるなんて初体験すぎて、童貞のように心臓がバクバクだが思考はクリアだ。
問題ない、このレベルの大凶はいくらでも引いてきた。
街を歩けば局所的大豪雨、大学に向かえば目と鼻の先で玉突き事故。海外旅行に行けばレストランで銃撃戦。
空から飛行機の破片が脳天に降ってきたことだってあるが、なんだかんだ生きのびた。散々な目に遭いつつも間一髪で死亡フラグだけはへし折っているスーパーラッキー野郎が俺だ。
俺はおみくじ引いても大凶が確定の男、神崎
この程度のスーパーアンラッキー、なんてことはない。
気が付いたら何故か漫画の中の世界にしか居ないはずのキャラクターと鉢合わせするなんてむしろラッキーだし。殺人事件に巻き込まれるどころか第一容疑者になるなんて滅多にないスリルだし。
退屈なボランティアよりもよっぽどハッピーアンラッキーじゃないか!!







………嘘です、流石に泣きそうです。

カモン名探偵!!
俺の無実を証明して!!!


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