silly game (1/2)


illy gameの夢主サイド
しれっと特殊設定、名前変換なし
アダルティな雰囲気




あんないい女を歯牙にもかけない男がいるだなんて。
同じ組織にいる者同士としては近すぎる二人の距離には別になんとも思わなかった。だが世紀の大女優に耳元で囁かれても顔色一つ変えない男は妙に気にかかった。
ジン。
コードネームしか知らないその男には人を愛する機能が備わっていないんだろう。ベルモット――女優シャロン・ヴィンヤードのほのかに揺れる恋心に当てられることなく冷然と構えられる男がいるとは。

「アンタ、ゲイなの?」

「ああ?」

任務帰りのポルシェの中。
興味の赴くまま訪ねてみれば、負の感情がこもった声が返る。
このまま拳銃で撃ち抜かれない勢いだ。

「ふざけたことを聞いてんじゃねぇ……」

「へぇ、女嫌いってわけじゃないんだ」

「ちっ。噂通り、腹の立つ野郎だな……」

「俺の噂なんかあるんだ」

「「未来でも読めてんじゃねぇかってくらいに気味の悪い男だと聞いている…………」…………貴様」

「はは、はもったな。俺たち、案外気が合うのかも」

「気色の悪い男だ……」

「今のはただの偶然だよ」

嘘だ。
本当はただ世界がイージーすぎるだけ。
数秒先に君が吐く言葉、一年先に君が死ぬ場所。俺には未来が『読める』。
意識の照準を明後日に向ければそれは突然に降ってくる。色褪せた映写機を回すように未来の映像も回る。
俺は足を組んでそれを悠然と見てる。
そんな人生。
未来からの危機を警告してくれるような便利なアラーム機能はついていない。しかし気を抜かずにさえいれば俺が未来に殺されることはない。
生まれ持った能力に引きずられるようにして危ない方、危ない方に惹かれていき、ついにはこんな組織にまでたどり着いた。
そして組織に殺されそうになれば、俺はまた別のところに向かうのだろう。
常に気を張っているようでいて、それでいて常になめくさっている。俺に与えられたのはそういう人生だ。
だから今日はじめて顔を会わせるはずの組織の重役の顔も俺は知っていた。
今日、共に任務に当たることは『読んで』いたし、そのために下調べもしていた。偶然をよそおってジンのお気に入りのバーで出くわすなんて容易い。
知らん顔で少し離れた席に腰かけて、一人物憂げな顔をしながら幹部たちの会話に聞き耳を立てるだけの作業。
向こうは俺の顔も知らなかった頃だから、そこに俺がいたことも知らないだろう。未来を読んで先回りしていたなんて予想だにしない答えが出てくるはずもない。

「アンタのこと見たことあるよ」

ジンの馴染みのバーの名前を告げれば間を置かずにこめかみに向けられる銃口。
読み通り。
でもお気に入りのポルシェの中でこの男が俺の頭を吹っ飛ばすことはそうそうないだろう。

「調べたのか…………」

「だから、偶然だよ。俺は探り屋じゃないし。あそこ、俺も好きなんだ。歌姫がいい」

「………………フン」

ほら、読み通り。
納得していないような顔だが、銃口は頭から外される。
俺はまだここで死ぬ運命じゃないってことだ。

「あそこに超美人いただろ?」

「ああ…………それがどうした」

ベルモットの名前は漏らさない。
『相変わらず』警戒心の高い男だと、はじめて合ったやつについそんな感想を抱いてしまう。
ベルモットの名を出さないのは俺がまだ彼女の存在を知らされていない下っ端だからだ。今回ジンと組むことになったのも、たまたま俺がサポートにつきやすい位置に潜り込んでいたからにすぎない。
警戒されずにターゲットに近付くことに関しては、俺に勝るものはいない。
不思議と警戒心を抱かせないなんて言われるけど当然だ。そうなるように未来を選び続けているのだから。
押しては引く言葉遊びだって嫌いじゃない。

「あんだけの美女に押されてもグラつかないアンタを見てびっくりしてさ。だからそういうのなのかな、って」

「フン。くだらねぇ話だな……」

「そりゃ残念」

「残念?」

「俺、アンタみたいなのタイプなのに」

「……これ以上この話を続けるなら本気で頭をぶち抜くぞ」

大丈夫、まだ押せる。
あとどれくらいで怒らせるのか測りながら言葉を楽しむ。
自分の特別な力のことを知ってからクセになったスリル。蝋燭の上をさっと飛び越えるような小さな肝試しだ。
怒らせれば容赦なく弾丸をぶちこんでくるだろうこの男はちょうどいい冷血漢だった。
引き際を誤れば、一つ読み間違えれば死ぬ。
会話しているだけのときですらスリルをまとわせたこの男は俺の興味をひいた。

「へぇ、意外だなぁ。試したこともないんだ」

何を、とは言わずとも通じるだろう。
チッと男は舌打ちをした。

「興味がねぇ」

「安全圏に留まる男には見えなかったけど、そっかぁ俺の思い違いかぁ」

「安全圏だと…………」

「常識の範囲にしか収まるつもりがないならそれは安全圏だろ」

わかりやすい煽り文句に鋭い視線が飛ぶ。
だが今度は何も言わない。
激昂しないのは図星に反応したようで嫌だから。
銃口を向けないのは俺の顔が整っているから。組織の下っ端とはいえ、これでも優秀な篭絡要員だ。

「試してみる?」

「………………」

試してみなよ。
そう囁く俺を君は冷めた目で眺めながらも、拒絶はしなかった。
それはきっと、俺の目も同じくらいに冷えきっていたからだ。
それくらいの火遊びならちょうどいいという合意。
これで晴れて君と俺の恋人ごっこの成立だ。


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