疑わないでラベンダー (4/4)
誰にも見つからずに水族館を出て、ようやく解散。長かった一日が終わる。
みんなそれぞれのおうちに帰っていったはずなのだが、何故だが元スコッチおにーさんだけまだ居る。どこまで着いてくるんだろう。俺の方はさっとメイクも髪色も落としたけど、おにーさんの方はパーカーのフード被っただけだ。ほぼすっぴんなんだけど大丈夫?カメラに顔が映らなければ平気?あ、そうですか……。
「今日は晩飯どうする?」
なんかナチュラルに一緒に晩飯食うつもりだこの人。
「大衆焼き鳥屋さん?」
「肉か。ハンバーグでも焼くか」
「わーい!」
神崎くんハンバーグ大好き!
「今日はおつかれさま」
「お互いおつかれさまいえーい!」
「事件のことだけじゃなくて、もっと他にも、色々だ。頑張ったな」
「あんまり優しくされると神崎くん泣いちゃう」
「良いんじゃないか?」
ケラケラと笑う元スコッチさん。痛い、痛い。頭グリグリされると痛いと言うとろーに。安室パイセンにもよくされるんだけどこれ、公安の文化だったりします?
「まあ、泣かないんですけどね!神崎くん男の子だから!!
「そうか」
グリグリなのかナデナデなのか良く分からない感じで髪の毛をぐしゃぐしゃにされる。やめて、せっかくセットした後に雨とか粉塵とかでぐっしゃぐしゃになった髪をさらにぐしゃぐしゃにするのは!
「……あんまり細かいことは気にする必要はないさ。まあ、そう言っても気になるだろうけれど。亡くなることが予め分かっていたとしても、全てが救えるわけじゃない。国も越えるほど遠くにいる相手なんて特にな……よくあるだろ、未来を知っているのに避けられないなんてお話は……いくらでもさ。お前は精一杯以上のことを今回やってのけた……そう言えば、少しは気が楽になるか?」
……………。
どうしてこう、みんな察しが良いんだろうなぁ。俺、何も言ってないはずなのに。
「何も言わない方が不自然、ってことだよ。特に神崎みたいなタイプは」
「神崎くん、今何も喋ってない!」
そっかー、顔に書いてあったかぁ。なら仕方ないなぁ。顔フキフキしたら落ちるかなぁ。
「俺たちは神じゃない。何もかもは救えないさ。何もかもはな……。大事な人を一人救えた。それどころか、今回だけで二人も救い出した。すごいことだよ」
「……だから泣くって」
「良いんじゃないか?」
「でも泣きません!」
だから胸に飛び込んでおいてポーズはやめろください。
「そうか」
仕方なさそうに元スコッチおにーさんは手をおろして苦笑した。
「なあ、神崎」
「んー?」
「ありがとな」
「????お礼は俺がする側じゃ?」
元スコッチさんは答えずにただ楽しそうに笑うだけだった。
……俺なんかしたっけ?
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