星に無理難題を (1/1)
梓さんが笹をもらってきた。
「というわけで切ってきました短冊!!」
「きゃー!神崎くんすごーい!」
梓さんノリが良くて神崎君気分がいい。
ポアロ看板娘の拍手いただきましたー!
「ノンノン、梓さん。俺は折り紙を切って紐つけただけですぜ」
「本当に切っただけですよね……」
それに対して安室おにーさんのこのノリの悪さ。
俺と梓おねーさんを引き気味の目で見ている。
おい本性でてるぞフルヤレイ。
ここは「七夕ですか、いいですね」って爽やかに笑うのが安室透的には正解だろ。
まったくこれだから安室おにーさんは!
「お客さんにお願い事書いてもらいましょーよ」
「じゃあドアの近くに置いておくね!」
「あと俺たちもなんか書きまショ」
「そうしましょう♪」
ノリノリの梓さん。
さてはイベント好きだな?
偶然ですね、神崎君もです!
「はい、安室センパイのぶん!」
「僕も書くんですか……」
「書きましょうよ、安室さん!」
「まあ、梓さんが言うなら……」
しぶしぶ短冊の紙切れを受け取った安室さん。
さあって、俺はなに書こうかな。
「あ。安室おにーさん、書きおわるまで見ちゃダメだかんね!」
「見ませんよ」
そして10分後くらい。
3人ぶんの短冊が笹にぶら下がっていた。
3枚だけだとちょっとさびしい。
「梓さんのは、なんて書いてあるかなーっと」
『今年こそ痩せる 榎本』
………………。
うん。
「……梓さん、じゅうぶん痩せてません?」
「贅肉はね……!見えないとこからついていくの……。見えるようになったらもうお仕舞いなのよ……!!」
「そんな大げさな」
「神崎君、それはマナー違反ですよ」
「そうですよ、神崎君!」
「アッ、ハイ」
「もちろん、梓さんは今のままでもチャーミングですけどね」
うわっ。
この安室いまウィンクしたよ。
油断ならないってこういうことなんだよね?
「もー、安室さんったら!」
梓さんが嬉しそうだ。
かわいい。
でも安室テメーはダメだ。
なんか今のはダメな気がします。
こう、健全な大人として。
「で、健全じゃなさそうな大人の安室さんは、っと」
「神崎君?」
守りたくない、そのえがお。
むしろ怖い。
笑顔の圧力はやめてください安室ハニースイートフェイス。
『恙無く過ごせますように 安室』
「つまんない、書き直し!」
「…………ホォー?」
「いたたたたたたたっ!?ちょっ、センパイ暴力反対!」
「いえ、ちょうどいいところに頭があったので。高さ的に」
「身長自慢かうるせぇ!」
「先輩に向かってうるさいとは聞き捨てなりませんね」
「あだだだだだだ!痔になる!つむじは痔になるって!」
「いつの時代の都市伝説ですか。しかも下痢ですよ」
あれ、そうだったっけいたたたたたたた!
容赦ねぇぞこの安室!
「安室さんと神崎君、すっかり仲良くなったわね~」
「「誰が」」
「ほら、仲良し」
「……………………」
「いてててててて!いい加減痛いって!!」
はもった程度で八つ当たりしないでいただけます!?
退避、退避ーー!
また頭グリグリされてたまるかー!
「梓さん、これほんとに仲良しって言います!?」
「まあ、他に比べてフランク寄りな関係であることは認めますが……」
「なんだろう、距離が近いって言われてるはずなのに刺とか壁とか感じる」
「だって、誰にでもいい人の安室さんが神崎君の扱いだけはちょっと雑でしょう?」
「神崎君がいつも一言余計なんですよ……」
「それって単純に安室さんに煽り耐性がないだけじゃ」
「そう。そういうところだ」
「ちょっ、つむじはもう勘弁!!」
「むしろ煽っている自覚があるならやめろ」
この安室透、爽やかさ0パーセント!
やだ、これが特別扱い……?
安室おにーさんの特別扱いは胸がときめかない。
神崎君覚えたぞ。
「煽るつもりは全然ないけど結果的に煽りになるらしい自覚はありまぁす!」
「完全に無自覚でいるよりもタチの悪い……」
安室さんが諦めた。
額に手を当ててため息を吐く。
そのしぐさ、まるで漫画で見た降谷さんですね!
「それで、神崎君は何を書いたんですか?」
「俺?俺はねぇ……」
さっき笹に結びつけたばっかりの短冊をみせる。
『水に溺れない 神崎』
安室先輩が真顔になった。
「…………なんですかこれ」
「え、俺の今年の切実なお願い」
「あら?神崎君って泳げないんだったっけ?」
「泳げるけんスけど……かっぱも河流れというか。神崎君も溺れるというか……」
「なるほど。足でもつって溺れたんですね」
「ちちちちちちちがうし!?」
安室おにーさん惜しい。
足をつったんじゃなくって崖からダイブしたんだ。
色々と不可抗力で。
「あらら……夏はそういう事故も多いから、気を付けてね?」
「はーい!」
梓さんに励まされるだけであと数十年は生きてけるぜ!
大凶に負けずに。
大凶に負けずに!
さあ、店のお片付けの続きだー!
「…………なにをやっているんですか?」
片付けながらさりげなく短冊を結ぼうとしたけどばれてしまった。
くそう、安室目ざとい。
プライベートアイこわい。
でも気にせず結んじゃお。
「どうせなんかつまんないこと書くだろうなって思って。安室さんの短冊、俺がかわりに書いといたから!」
3枚だとやっぱさびしいよね!
『運命の人と出会えますように 安室』と書いた短冊を笹にくくりつける。
「だから、そういうところだ」
速攻ちぎられた。
なぜだ。
気付けば七夕前日。
店の入り口に飾られた笹には色とりどりの短冊がぶらさがっていた。
ちらほらと見覚えのある名前が書いてあって、見ていて楽しい。
『大きくなれますように コナン』
コナンくん、これ身長の話じゃないよね。
『いいかげん帰ってこい新一!! 園子』
『京極さんが次の試合で怪我しませんように 蘭』
『魔法使いにまた会えますように 世良』
仲いいなぁ。
JKっていいなぁ。
青春してるなぁ。
『およめさんになれますように! あゆみ』
『せきがえがしたいです! みつひこ』
『うなじゅうくいたい げんた』
『無病息災 灰原』
一人を除いて子供陣もかわいいなぁ。
みつひこくんは灰原さんの隣になりたいんだな、これ。
灰原さんはもうちょっと子供らしくしましょうね。
無病息災なんて短冊に書く小学生はちょっとこわいよ?
『野良犬を手懐ける 沖矢』
なにポアロに来てるのオキヤスバル。
なに野良犬を飼おうとしてるのオキヤスバル。
なんなんだこのお願い。
『記憶がもどりますように 高木』
やめて神崎君のsan値はゼロよ、ってか、いつの間に来てたの高木刑事。
この書き方だと高木刑事が記憶喪失だよ……。
『大金持ちになる 毛利』
ダメな大人だ。
競馬で一山当てようとしてるダメな大人だ。
『事件に巻き込まれませんように 神崎』
ダメな大人だ。
安室はダメな大人だ!
この筆跡は間違いなく安室透!
俺のお願いごと捏造しやがった!
俺が捏造した短冊はきっちりちぎって捨てたのに!!
優しいのか鬼なのかよくわかんねぇなこれ!?
『神崎の大凶がなおりますように』
待って。
これ匿名だけど書いたの誰。
お星さまが大凶なおしてくれるなら嬉しいけどまず大凶をなおすってなに。
大凶って修理できるもんなの。
誰だよこれ書いたの…………。
ちなみに、今年の七夕は近年まれにみるどしゃ降りになった。
星なんか見えやしねぇ。
…………大凶なおしてって言われたせいじゃないよね?
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