失恋と妹ロスはどちらもレモン味である。 (1/1)
お題キーワード:レモン、夏祭り、人ごみ、飛沫
二時間クォリティ
親友の彼女のお兄ちゃんがヤクザでした。
ばったり出くわした厳つそうな三人組に親友の彼女が駆けていったときは驚いたけど。
そのうちの一番派手な白髪赤目の男にその子が「お兄ちゃん」と呼び掛けたときはもっと驚いた。
さらにもっと驚いたのはお兄ちゃんさんが人混みに流されてしまったことだろうか。急に女の人の大群が走ってきてお兄ちゃんさんを流していってしまった。
そして助けない残りの二人。
「あの、流されていきましたけど……」
「佐馬刻は女に手はあげませんからね」
「そうか。見かけによらず紳士なのだな」
「アイツが紳士というタマですかねぇ……」
俺の親友とお兄ちゃんさんの妹?
これ幸いと二人きりになりに行きましたよ。
「しょっぴかれるようなことはいけませんよ」
そう言って二人を見送った眼鏡の人は警官なんだとか。
もう一人の迷彩服の人は黙々とイカの丸焼きを食べてる。
なんだか幸せそうな顔だ。
なるほど、ここにお兄ちゃんさんの味方はいないらしい。
「あの…………なんか気になるから見に行ってきますね」
返事を聞くこともなくお兄ちゃんさんが流された方に駆けていく。
三人で遊ぶ約束だったのに置いてかれてしまったし。
やることがないのだ。
本当は失恋した俺を励ます会だったというのにあいつらめ。夏祭りを恋人同士でエンジョイしやがって。
なら最初から誘わないでくれよ……お一人様でお祭りとか空しいだけじゃん……。
そりゃ毎年、親友と野郎同士デート楽しんでたけどさ……彼女と回りたいなら普通に俺も遠慮するよ……。
「あ、いた」
ようやく見つけたお兄ちゃんさんはちょっと萎びてた。
石畳の階段に座り込んで死んだ目をしてる。
「…………ああ?なんだテメェ……?ちゃらちゃらして面つけてんじゃねーよ……」
凄まれた。
ちょっと元気なさそうだけど普通に怖い。
「さっき会った藤堂ですよ」
「…………ああ」
見るからにお兄ちゃんさんのテンションが下がった。
「あいつもそういう歳か…………はぁ」
あ、さてはこれ彼女さん彼氏ができたこと言ってなかったな。
憂鬱そうなお兄ちゃんさんの足が小石をいじいじと踏みにじる。
持ってる手頃な石はどうすんですか。人に向かって投げるんすか。……あ、そうやって積むのね。
お兄ちゃんさんの隣に小さな石塚ができてるよ。南無南無。
「レモンチューハイ飲みます?」
「おー…………」
ぷしゅっと缶が開く。
俺は未成年だから飲まないよ。いい子にたこ焼きとりんご飴食べてるよ。
「別によ、俺も彼氏の一人くらい怒りゃしねぇよ。クソ野郎や俺の顔見ただけで逃げ出すような腰抜け野郎とかじゃなけりゃ、そりゃあいつが選んだならしかたねぇし…………」
「そうですよねぇ」
「ちっとくらいはガンつけるかもしれねーけどよ。ガンつけたかもしれねーけどよ……けど、んなもんでびってひよるくらいのロクデナシなら今のうちに追っ払いといた方がいーだろよ」
「もぐもぐ」
「マイク出したわけでもねぇのによ……ぶっ殺すとも言ってねぇんだぜ?一発殴らせろとや思うけどよオ……何もまだやってねぇってのに……あいつ、俺をくそ女どもの中に押し出してまで避けなくてよくねぇか……?」
「んぐっ、んぐっ」
マイクってなんだろ下ネタかな。
水風船をぶらぶら揺らす。
たこ焼きあと一個になっちゃった。
「テメェ聞いてねぇだろ」
「もぐもぐ、はい…………はい、たこ焼き美味しいです」
「はーーーーーー…………」
「イカ食べます?」
「どうせなら焼きそばよこせ」
「はーい」
楽しみにしてた焼きそばだけど、お兄ちゃんさんの頼みなら仕方ない。
妹ロスと失恋は同じようなものだって俺が今決めた。
まあまあ腹も膨れてきたし。
後でかき氷も食べるお腹残しとかないと。
「つぅかよく考えたらおまえこのチューハイどっから取ってきた」
「店のおばちゃんがレモンコーラと間違えて渡してきました」
「なんだそりゃ」
「処分に困ってたんですよねー」
「あっ、そう……」
「………………」
「………………」
「…………レモンコーラって、なんだ?」
「レモン味のコーラですよ」
「そのまんまんじゃねぇか」
「そのまんまなんですよねー」
「言いつつ何やってんだテメェ」
「暑いので打ち水ですね」
「それ神社の手を洗うやつじゃねぇか?」
「そうですね」
「………………」
「………………」
「おまえびしょびしょじゃねぇか」
「すぐ乾きますよ。お兄ちゃんさんもどうです」
「いや、いい」
「そーですか」
「………………」
「………………」
「オイ、お兄ちゃんさんってなんだ」
「お兄ちゃんさんのことです」
焼きイカ( ゚Д゚)ウマー。
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