ある日のポアロ (1/1)


友人との企画で書いたものをせっかくなので転載。
「インターネット」「ギャップ」「剣」の三題、制限時間二時間。

「バイト探しは大凶中」の続き?
テンションが全体的におかしいです。




「うわあああああ!神崎君すごーーーい!!」

「でしょ」

梓さんがパチパチと手を叩いてくる。
悪くない気分だ。
勝利の女神からの喝采とはいいものだなぁ、安室先輩!!

「………………………」

あ、待って。
やっぱり怖い。
その無表情でガン見は止めてお願い。神崎君、公安の無表情怖い。
安室さんちょっとバーボン出てる。お願いだから仕舞って。
下手にイラッとした顔されるより怖いんだけど。
まあだが勝ったのは俺の方だがな!

「ほんとに30回連続で大凶!」

「ネ、ほんとに大凶しか引けないでしょ」

「……梓さん、映像の検証に入ります」

「あ、は~い」

「だから本当にイカサマなんてしてないってのに……」

「50枚の札が入れられた箱から同じ札を30回連続で引き続ける?そんなことが現実に有りうるなら、幽霊ですら存在しますよ……」

トリップがあるんだったら幽霊もいるんじゃねぇかな、この世界……。ほら、謎の組織とか幼児化とか探偵とか米花町の死神とかいるこの世界なら幽霊くらい受け入れてくれるよ。
事の発端は俺の大凶運に対するイカサマ疑惑だ。
もちろん原告は安室透。
俺が思い出話(主に俺が死にかけた話)を梓さんに話していたところ、突然背後から現れた謎の安室透に訴えられてしまい……気が付けば俺は安室さんお手製のおみくじを引くことになっていた。
俺おみくじ嫌いなのに。
大凶と書かれたたった一枚の紙切れを三回連続で引き当てたあたりで安室さんの目が鋭くなりはじめ、五回目で急に証拠映像を撮りましょうと言い始めた。
ポアロにあったビデオカメラを持ってきた梓さんが俺たちの間に立って証拠映像を撮ることに。
なんどみてもタネも仕掛けも一切ありません。
これ、Uつべあげたらバズる?神崎君人気チューバーになっちゃう?
エスパー神崎とか呼ばれ始めるのはなんか名前がださいから嫌だなぁ。
そんなこんなで記念すべき50回目。
ついに安室透の顔から表情が消えました。
今は怖いくらいに真剣な顔で映像検証をしていますが、そんなに食い入るようにみても何もありません。
ただ大凶しか引けない憐れな男が一人映っているだけです。

「どうでショ安室さん」

「……………」

「タネもネタもなーんもないでしょ?」

「本当に居るんですね……びっくり人間みたいな人って」

「梓さん、びっくり人間なんか違う。神崎君ふつうの人間」

「……本当にタネも仕掛けもないと言うのか……?」

だからないと言ってるじゃないか、安室透こと降谷零。
安室さんほんとにさっきから色々漏れてる。沖矢昴の中身赤井秀一がたまにちらちら漏れてるみたいな感じでバーボンとか降谷とかちょこちょこ漏れてる。
バイト先がアットホームだからって気を抜きすぎじゃ。

「はーい、あと十秒で切り上げようぜ。じゅうー、きゅうー、はーち……」

待ってくださいと言っても待たん。
どうせ紙引いては戻し、箱を振ってはまた同じ紙を引く作業が延々と映ってるだけだしな、その動画。こう言うとくそつまんなそうだな、これ。

「「さーん、にー、いーち!!ゼローーーー!!!」」

梓さんと声をそろえてカウントダウン終了。
やだ一緒に声そろえて降谷さんの名前を呼んじゃった。このノリ、俺知ってる。子供向け戦隊物でヒーローを呼ぶやつだ。
さあ、出番ですよ安室さん!!!

「………………今回は僕の負けということですね」

ため息を吐いた安室透。
思いの外あっさりと敗北を認めたな。

「調査をする機会はこれから先いくらでもある……」

「はいはいはーーーい!というわけで!」

何か怖いことを言われた。
今婉曲的にバーボンされるって言われた気がする。気のせいだよね?

「なんか罰ゲームしまショ!」

「は?」

今のはガチの「は」だった。
公安怖い。

「いや、だってせっかくここまでやったんだし」

「えー、楽しそう!何やりましょうか?」

「ちょ、ちょっと梓さん……」

「いいじゃないですか、安室さん。あ、でもあんまり酷いのはダメですよ!!」

「えー?」

安室透熱唱祭とか、安室透一日コスプレイベントとか、目が合った女の子を安室透が全員とりあえず口説いてみて何人とデートできるか挑戦企画とか色々考えたのに。
どれが一番ひどいのか神崎君には判断がつかないよ。

「じゃあ梓さんが決めてくださいよ」

「わたし?」

「ほら、梓さん毒がなさそうだし」

「……まあ、神崎君に決められるよりは安心感が持てますね」

神崎君は無害物質です。
犯罪者でも殺人者でもありません!ただの巻き込まれがちな一般人です。
俺が目線で頑張って安室透にテレパシーを送ろうとしていると、口元に手をあてて考え込んでいた梓さんがはっと顔を輝かせた。

「あ、二人で寸劇とかはどう?」

「「え」」

待って梓さん。
それ俺も罰ゲームに巻き込まれてる。

「それは構いませんが……」

おまえも構わないのかよトリプルフェイス。

「演じる題目はなんですか?」

「ええっと……ええっと………神崎君と安室君でやるんでしょう?なんかかっこいいのとかないかな?」

「なんか、こう……貴族同士の決闘とかかっこいいですよねー」

「じゃあそれで!」

「えっ」

待って、ごめん今すごいノリで言った。
剣とかどうするの。

「あ、剣はないのでエアー剣で!」

梓さんエアー剣ってなに。

「仕方ない……少し本気で行かせてもらうとしよう!」

「へっ?」

安室さんその妙に堂に入った構えはなに。
俺、剣とか持ったことないんだけど。
どうするの?これなに?安室さんの真似すればいいの?

「梓さんは君には渡さない!」

「ふぁっ」

なんでこの安室さんノリノリなの。
待って、え?なに?これ梓姫をめぐる二人のイケメン騎士の決闘?そういう設定でいいの?

「さあ、早く剣を抜け!」

ねぇよ剣。
安室透テメーが持ってんのもただのエアー剣だよ。くそっ、微妙に様になってるのがむかつくぜ。

「フハハハハ!!!梓姫を返してほしくば我を打ち倒してみろ!!」

「え、そんなキャラで行くんですか……」

どんびきするな。
はじめたのはおまえだろーが。

「さあ、かかって来い!」

「――望むところだ!!」

切りかかってきた安室さんの剣を刀身でいなす。
相手の重心がぶれたその瞬間を狙い踏み込めばフェイク。重心をぶらした勢いで半回転した安室さんの蹴りが飛んでくる。待って、蹴り技とかありなの。

「そんな弱々しい打撃で姫が奪い返せると思っているのか!!」

「奪い返して見せますよ……姫も、その心もね!!」

打ちあう剣。
返す返すに攻めの一手に踏み込んでくる安室さんをリズミカルにいなす。呼吸を読んで、視線をさばいて。決して違えないように。フェイクにつられないように。

「息があがっているぞ、安室透!」

「それはおまえもだろう、神崎!」

何度も切り結び、互いの呼吸を肌で感じられるようになってきたころ。
突然、安室透のリズムがぶれた――
下に半歩沈み込み、俺をみあげるようにニヤリを笑う。
その瞬間、懐に入り込んだ安室さんが俺の剣を払いあげた。
床に転がる俺の剣――
まあ、ないんですけど、剣!!!
どうぞ想像で補ってください!!!安室さんの方は構えとかキレイだから腹立つくらいかっこいいよ!
金髪がさらっと風になびいて安室透が不敵に笑う。鼻で小さく笑うようなその笑い方、イケメンっぽくって神崎君腹が立ちます。
くそう、負けた。
まあ、ここは悪役としては正義に負けとくべきだよな。仕方ねぇ、梓さんは今回は譲ってやるよ。

「しかたないな……我の負け――」

何故か安室さんが剣を放り投げる動作をした。

「さあ、剣を捨ててかかってこい!」

「あ、それは流石に勘弁してください」

どうやってボクシング経験者に素手で勝てと。
もうギブアップでお願いします。
神崎くん疲れたし、剣打ち合う演技とか普通に辛い。
終わったのを察した梓さんがパチパチと拍手してくれた。くっ、心に染みる喝采だぜ……。

「わぁ!!!二人とも演技派なんですよね!!普段とのギャップにくらくらしちゃうかもー!」

ギャップ萌えですか。
梓さんそれはギャップ萌えですか!?
神崎君にくらっとしちゃう?ちょっとデートに誘ってあげてもいいなーとか考えちゃう?
いいなぁ、梓さんと米花町デート……は10割がた事件に巻き込まれるからやめておこう。

「安室さんとか俺、以外だったなぁ。正義の主人公とか似合わなさそうなのに」

「ははは、そうかもね。僕もちょっと柄じゃないことをしてしまったかな?」

おまえは正義の男だろ、降谷零。
もー、そういうしれっと惚けるところが神崎君こわいの。

「でも安室さん探偵さんだからやっぱり正義寄りじゃない?ふふっ、喫茶店にくる女の子たちにも見せたら大人気になるかも」

「それはちょっと……」

「あ、ネットとかにあげたらバズりそ――」

「個人情報を勝手にあげるのはダメだよ、神崎さん」

「「「え?」」」

振り向くと小さな名探偵がそこに。
思わず安室さんと一瞬顔を見合わせてから、もう一度背後を見直す。
やっぱりコナン君居る。
ちょっと待ってコナン君、君いつから見てたの!?




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