たとえばこんな現在 (1/1)
一部原作のネタバレ有
長編終了から少し時間が経っている雰囲気
神崎君は諦めました。
「緑とかいいんじゃないか?印象変わるし……」
「淡い系あんま着たことないなぁ、確かに。未知の領域だわ」
「似合うと思う」
「マジかー」
夏前なのに首を隠した不審者と仲良く服屋で買い物中です。ビバ!ウニクロ!
もうなんか、死んだはずの公安さんは好きにすればいいと思うよ……。堂々としてりゃバレないだろ、たぶん……。
本日の神崎君イメチェン計画の協力者をご紹介しましょう。
元スコッチこと輝さんです。本名は知らん。
今日はこの輝さん(偽名)におもいっきり神崎君を染めてもらおうと思いまーす。
「じゃあ上は緑二枚くらいいこうかな。あとは……柄物ほしい」
「あんまり派手なのは前とイメージが被るだろう」
「……そんなに派手だった?」
「主に髪と目が」
「服関係ないッスねそれ!でも採用!!」
よしわかった、赤い服は避けるぞー。
あと周りは気を付けとくぞー。
「…………?神崎、そんなにキョロキョロしたどうしたんだ?」
「いやぁ、そろそろなんか来るかな、って思って」
「ああ、怪奇現象」
「俺いこーる怪奇現象にするのやめてくれます!?」
「お前に会って、俺ははじめて科学も理論も通じない物があるのだと思い知ったよ……」
そんな人をカオスの権現みたいに。
「トリックかもって思わねぇの、元おまわりさん?」
「水面に衝突した直後に消えた車を見てもか」
「マジで。あれ消えたの」
「消えた。川の中を探してみてもなかった」
「なにやってんの風邪ひくだろ」
ちょっと、輝ことスコッチおにーさん川に飛び込んだの?
夜の川は危ないよ?そこははやく赤井さんのとこお行きなさいな。
「その前に彼に保護されたから大丈夫だったよ……」
「あの人、あの状況でホイホイ出てきたの」
「『本来』のお仲間とぞろぞろな」
「やだー、俺捕まえる気満々だった奴じゃないですかー」
数ヶ月ぶり(現実時間では数年ぶり)に明らかになった真実!
諸星ライこと赤井秀一は神崎君をあの日捕えるつもりだったらしいです。FBIのお仲間と一緒とかガチじゃん。スコッチおにーさんガチで助けに来てるじゃん。
愛されてるなスコッチさん。
それで組織に正体がばれてたらどうするつもりだったのか。
まあ、原作通りなら結局ライおにーさん正体ばれるけどさ……。
「捕まえる気だったみたいだなぁ……降谷も居なかったし――あ、下はこれがいいんじゃないか?」
適当でもないような雑談をしつつスコッチに差し出されたのは藍色のジーンズ。
わぁ、ダボダボ派の俺があんまり履かない奴。
ってか知ってたよ。神崎君知ってた。
やっぱりバーボンいなかったんじゃん!バーボンがいると思った?残念FBIの赤井さんでしたーってやつじゃん!
「俺は仲間を売らない趣味でね」とニヒルな笑みを浮かべたスナイパーが神崎君に銃口向けてるのが目に浮かぶぜ。
よかったー。俺、水に沈んでてよかったー!
……いや、よくねぇよ。
「神崎、シャツはクルーネックがいい」
「えー、俺これだったらタンクトップ系つけたいなぁ」
「それだともう一人のおまえの雰囲気とあんまり変わらなくなるぞ」
「それは困る」
スコッチさん、『もう一人のおまえ』とかその厨二くさい呼び方なんとかなりませんかねぇ。
もう一人の人格なんて飼ってる覚えないんだけどなぁ。
今回の目的は神崎君のイメージチェンジだ。
もう一人の赤い神崎君とイメージが被らないために服から変えなければ。なんか安室透の目が日に日に鋭さを増している気がしてマジ怖いんだよ最近。
服くらいで何とかなる気は全然しないけど何もしないよりはマシだろう。
イメージチェンジってもんは自分でやるより誰かにしてもらった方が早い。というわけで友人を呼ぼうと思ったところ、そういえば俺頼る人間がほとんどいないことに気付いてダンチョーの思いで呼び出しのが輝さんです。
案外ホイホイついてきてくださったよこの元公安からのNOC。
お前あの時の警戒心どこに落としてきた。
――え?
タカギケイジ?しらないなぁ……そんな傍にいるだけで神崎君のSAN値がガリガリ削れていくような人の名前は……。
あと現職の刑事さんを買い物に付き合わせるのはなんか抵抗感ない?
「クルーネック、クルーネックかぁ。どんなんがいいかなぁ。グレー?」
「ん……なんかピンと来ないな。……うわっ、確かに赤色似合う」
「だっしょー?」
スコッチの手が適当な服を一枚ひっつかんで俺の体に合わせる。
裾が長いシャツは確かに俺好みだ。
スコッチおにーちゃん、わかってるぅ。
「だが赤は却下だな」
「ですよねー。あっちのオレンジとか……」
「同系色は禁止だ」
それけっこうきつくないッスかスコッチおにーさん。
同じ種類のシャツの色違いをざっと眺めながら赤系統ではないものを探す。このタイプは明るい色ばっかりだなぁ。
ってか、今更だけど何故にクルーネック。なに、なんかクルーネックのTシャツにこだわりでもあんの?
「ねーねー。ところでなんでクルーネックなん――」
「あ、これなんかどうだ?」
「輝さん夢中になってません!?」
スタスタと俺を置いて向こう側の棚に歩いて行くスコッチ。
一枚のシャツ(やっぱクルーネック)をひっつかんでスタスタと俺の体に合わせてきた。
うわっ。
驚きの白さ。いや、驚きのモノクロさ?
「えっ、ちょっと。神崎君ボーダーなんてはじめて着るんだけど。それも白黒?」
「着たことがないものの方がいいんだろ?」
「そうだけど!確かにそうだけど!!ちょっと冒険しすぎやしませんかねこれ!?」
「何をボーダーくらい大げさな」
「なんか俺のアイデンティティ的にシロクロは忌避感を感じるというか、なんか怖いというか」
「いいから着ろ」
「うわぁん、輝おにーさんに脱がされちゃう!」
「ちょっ、変な声出すな!!」
「ふごふご」
男が男に急に口元覆われる方が変なことだと神崎君思いまぁす!
マジでひそむ気ないなこの死んだはずのスコッチさん。
そのまま服一式ととともに試着室に押し込まれる。拉致された。神崎君今試着室に拉致されたよ……。
スコッチおにーさんったら強引なんだからもーー。
「おーい。まだか?」
「あー、ちょっと待って」
後は上着を羽織るだけ、っと。
………おお。
これは意外といけているのでは。
丈が長めの緑パーカーに白黒のクルーネック。下は藍色のジーンズ。
ナウっぽいヤングスタイルだ。
これは一般的な若者に擬態できる。渋谷の人ごみの中とかに自然に紛れ込める!!
「これは勝つる!!」
「何に勝つんだ。……うん、悪くないな」
悪くないどころか、俺すごくね?みたいな顔していらっしゃいますねスコッチさん。
まあすごいけどさ。
え?俺かっこよくね?ちょっとうさんくささ取れたんじゃね?
……あ、今のなし。うさんくさくナイ。神崎君うさんくさくなんかないよー。不審者でもないヨー。
ただの気のいいおにーさんだよー?
「よおし、じゃあこれ購入するとして……」
「案外あっさりと決まったな」
「さっすが輝さん!!センスが光る!!」
「それほどでもあるさ」
否定しなかったぞこいつ。
フッ、と笑うその口元、ひきつねりたい。
「くそぉ、なんか腹立つ」
「そうか。まだ時間もあるしもう数着選ぶか」
「自然にスルーしないでくださいおにーちゃん」
「誰がおにーちゃんだ」
「くそう、こうなったら俺が輝さんの服を選ぶしか……!」
「へぇ……やってみるか?」
くそぉ、なんか腹立つ。
スコッチのくせに。
死んだはずの公安のくせに。
「じゃあ赤を着せる」
「俺が赤を着るのか……」
微妙そうな顔をするスコッチおにーさん。
赤の何が不満だと言うのかね!?
おまけ
そういや、あの日は大凶しなかったなー。
思い返しながら遠い目をする。
「その恰好……」
じろじろと安室先輩に上から下まで眺められています。
町中でばったりバイト先の先輩に会っちゃいました。どうしよう胸がドキドキときめいちゃう。イメチェンした神崎君はどうかしらん?
「………………」
安室は無言だ。
え。何なの。
そんなに変なの!?スコッチさんのセンス実はあんまりよくなかったの!?
「安室さーん?」
「…………あ、いえ」
現公安の男が目元を切なげに緩めた。
あれ、なんかこの人のこういう顔をリアルで見たのははじめてな気がする。
安室さんが俺を見るときって大体バーボンスイッチ入りかけてるんだよなぁ。
漫画ではたまに見たけどこの口もとを少し釣り上げるだけの笑い方。大体「まさかな……」とか「すごい子だ……」とかそんな感じの台詞が続く表情。
「………………まさかな」
ほら、「まさかな」言った。
「このカッコ、そんなに変?」
「いえ、似合っていますよ。あなたにしては珍しいですけどね……そういう普通の恰好……」
「それ、普段の俺の服が変って言ってる?」
「あ、いえ……個性的だな、と」
神崎君知ってる。それ「変だよ」の婉曲表現。
喧嘩か?これ喧嘩売られてるのか?買ったるぞ?エアー剣と舌戦での喧嘩なら買ってやるぞ?お?
あ、拳と拳の接近戦はなしでお願いいたします。銃撃戦と推理合戦もできればナシの方向性で。
「よぉし、その喧嘩買った!選んでくれたやつに告げ口しちゃる」
スコッチ、スコッチ―!降谷がお前の洋服センスださいってー!!
「似合っていると言っているじゃないですか、まったく……少し思い出しただけですよ」
「思い出す?」
「パーカーにクルーネックにジーンズ。そういう無難な恰好を好む友人が、昔居たんですよ……」
おい待てそれって。
「あー……仲違いでもしたの?」
「…………ええ」
スとコと小さいツとチの文字が俺の脳内を踊っている。
あいつ完全に自分のよく着てた服テイストで選びやがったな!?たしかに今までの神崎君と全然違う雰囲気になるけどさ!?
とりあえずボロがでるまえにすっとぼけてみたら、幸いと安室さんも乗ってくれた。
神崎君は目下不審者と思われているだけで別に赤い方の神崎君と同一人物説を疑われているわけじゃあない。NOCだと組織に知られたスコッチの話はしない方が安室透的には安全ですね。
「仲違い………そんな話ですよ………」
「詳しく聞かない方がよさそーだね」
「……本当に、君は………」
思ったままを口にだせばなぜか苦笑される。
何故だ。
詳しく聞かない方がいいでFAだろうこの流れ。
あれ、でもいい雰囲気。ちょっと安室おにーさんといい雰囲気じゃないかこれ。
このまま神崎君がいい人だってわかってもらえれば……!!
「……まあいい。それより、神崎君はどこに行くんですか?」
「ちょっと病院に定期健診」
「ああ……記憶喪失」
やめろ。
ニヤって笑うな。
記憶喪失?ふーん……みたいな顔をするな。
本当なの!本当に神崎君米花町で暮らした記憶ないの!!信じてぷりーず!
「……ご一緒しましょうか?」
「結構です!!!」
ついてくるんじゃない、バーボンモード!!
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